本
菊地昭夫『Dr.DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス〜 2』 東京DMAT隊員・八雲響の葛藤と成長をえがく第2巻は、人間ドラマとして読みやすい。災害医療は自分向きでないと思い、辞めたいと願う医師の思いと、周囲の状況とが運命的な交わり方をするさまを劇的にえが…
菊地昭夫『Dr.DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス〜 1』 重いテーマにもかかわらず、読みやすい。救急医療(ERなど)はよく知られているが、それとは違う。最新の医療施設の中で1人の患者に対し最大の医療を施せるのが「救急医療」。それに対し、災害の現場という…
北大路魯山人「日本料理の基礎観念」 講習会の記録で、読みやすい。初出は「星岡」第37号(星岡窯研究所、昭和8〔1933〕年12月30日発行)。 見所は、日本料理のことわりを簡にして要を得たことばで歯に衣着せず語ったところ。食するだけの人にも、もちろん料…
宮沢賢治「マリヴロンと少女」 もとになった童話「めくらぶどうと虹」と比べると、かなり読みにくく、むずかしい。会話の内容はほぼ同じであるものの、ぶどうと虹の対話が、少女ギルダと声楽家マリヴロン女史の対話に変わったことで、哲学や宗教の問答のよう…
宮沢賢治「めくらぶどうと虹」 宮沢賢治の「花鳥童話」のひとつ。後に、書き直して「マリヴロンと少女」という作品となる。 両者はよく似ており、全く同じ表現も多い。 けれども、根本的な違いもある。だれでも気づくのは、ぶどうと虹との会話が、後の改作で…
久住昌之『孤独のグルメ 【新装版】』 淡々と綴られた短篇集のおもむきながら、あの頃の雰囲気がしっかり漂ってくる好ましいマンガだ。 主として東京のいろんな場所で食べた食事のあれこれが、気負いもなく、本当に淡々と綴られる。その場の雰囲気も過不足な…
惣領冬実『チェーザレ 破壊の創造者(2)』 第1巻で衝撃を受けたシリーズだが、正直言って、この第2巻では、勉強になる部分もあるにはあるのだが、がっくりする面があった。 一つだけ例を挙げる。「プリマヴェッラ」の表記は一体どうして? と首をかしげる。…
惣領冬実『チェーザレ 破壊の創造者(1)』 これは面白い。15世紀のピサの様子や、ピサの権力闘争の渦中にある人物群がみごとに活写されている。絵も美しい。典拠の資料もしっかりしている。 ほとんど文句のつけようがないマンガだ。当時のイタリアに関心が…
ウォルター・アイザックソン、ヤマザキマリ『スティーブ・ジョブズ(1)』 ウォルター・アイザックソンが書いた伝記『スティーブ・ジョブズ』をヤマザキマリがマンガ化。一言でいって、大変おもしろい。原著を読んだ人でも目を開かせられるだろう。 原著は…
ヤマザキマリ『テルマエ・ロマエV, VI』 第5巻と第6巻とを合わせて。 第5巻ではルシウスはほぼ日本にいずっぱりである。伊藤の温泉街のためにからだを張って奮闘する。温泉の基幹技術をまなび、裸馬に乗る技術を披露することで本物の古代ローマ人かもしれな…
ヤマザキマリ『テルマエ•ロマエIV』 古代ローマからときどき現代日本にワープしてきていた浴場技師のルシウスだが、本第4巻では日本に長期滞在するはめに陥り、さらに老舗の温泉旅館で見習いとして働き、現代文明のさまざまな面、中でも電力について原始的…
ヤマザキマリ『テルマエ•ロマエIII』 いつもは古代ローマと日本とを予期しないタイミングで往還するだけで、なかなか日本人とコミュニケーションがとれなかった浴場設計士ルシウス。 けれど、この第3巻では温泉街で日本円を手に入れラーメンを注文することま…
ヤマザキマリ『テルマエ•ロマエII』 ローマの浴場と日本の温泉などを往還する物語『テルマエ・ロマエ』の第2巻は、連載当時、「なんでこんな読者を振るい落とすような内容を?」と物議をかもしたエピソードで始まる。 けれど、作者は本作の当初からこの構想…
ヤマザキマリ『テルマエ•ロマエI』 古代ローマの文明と日本の文明とを時間旅行する浴場技師ルシウス・モデストゥスの抱腹絶倒の物語。 これからローマ文明の末裔の文化圏(欧米など)へ留学する人や、そういう人が家族にいる人は、本第1巻だけでも、騙された…
岡本かの子「ダミア」 音を描いた随筆を四篇ほど読んだ。太宰治「音に就いて」、芥川龍之介「ピアノ」、夏目漱石「変な音」、そして岡本かの子「ダミア」の四篇である。初めの三篇を読んだ段階で耳のよい作家はいないものだなと思った。 ところが、パリの歌…
牧野信一「地球儀」 牧野信一(1896-1936)の短篇小説「地球儀」(1923)は、2013年の大学入試センター試験に全文が出題された。 経緯はともあれ、注目をあびた作品だが、作中の地球儀をめぐる創作について書いてみる。「長男が海を越えた地球上の一点に呼吸…
芥川竜之介「歯車」(新潮文庫『河童・或阿呆の一生』所収) 石原千秋は「時評 文芸 5月号」(産経、2013年4月28日)においてこう書いた。 産経、2013年4月28日 「新潮」は短編小説をずらっと並べたが、どれもピリッとせず、上手い書き手は一人もいなかった…
岡山嘉彦『神の鳥』(幻冬舎ルネッサンス、2013) プロの作家による入念な推敲を経た、またプロの校正者による綿密な校正を経た小説とはまた違うかもしれないけれど、扱うテーマや舞台に関心のある人には興味深い本だろう。幻冬舎ルネッサンスは幻冬舎とは違…
アレン・カーズワイル『レオンと魔法の人形遣い・上下』(大島 豊訳、東京創元社、2006) これ、話の性質上、詳しくやるとネタばれになってしまう。そこでそれは諦め、ここでは、この読み出したら止められない痛快ファンタジー小説の最終章の謎についてメモ…
巽 孝之 『「白鯨」 アメリカン・スタディーズ』(みすず書房、2005) 知的冒険の書。19-21世紀のアメリカ史、アメリカ文学、SF、核の時代の(文学的)想像力、ゴジラ等々に関心があれば知的興奮を覚える書。 三回の講義形式で、アメリカ文学乃至世界文学の…
茂木健一郎『脳の中の人生』(中公新書ラクレ、2005) 脳科学者・茂木健一郎の脳にまつわる書は多い。追いかけていると、しばしば同種の記述に出合う。 2005年刊の本書を読返して、現時点で興味深く思われることをピックアップしてみる。 ハイライト 第四章…
文庫本が立てられるブックスタンドは、ありそうで中々ない。 立派な書見台はたいてい大きめの分厚い本に対応していて、そのことが文庫本にはかえって向いていなかったりする。 そこで、スリムなタイプで文庫本にぴったりのブックスタンドを探したところ、ま…
かつてのベストセラー書。アイルランドについての記述(164頁)があるから買ったのだが、望外に得るところ多し。論理の権化に思える数学を扱う数学者が、まず、論理の欠陥を説く。目次 論理と出発点 正しい出発点を選ぶには━━情緒と形 グローバリズムは歴史…
典礼委員会詩編小委員会『詩編―ともに祈りともに歌う』(あかし書房、1972) 詩編とは歌集である。本書あとがきに〈詩編は、紀元前三~一世紀ころ、イスラエルの民の共同の祈り、集会の歌として集められたものである〉とある。 本書はカトリック教会で共同の…
酒寄進一が絶好調だ。彼の訳すものならなんでも読みたくなる。 ドイツ・ファンタジーの『魔人の地』(創元推理文庫、2015)は空飛ぶ絨毯に乗る若者と砂漠の魔人との対決という千夜一夜のような物語。生き物のような絨毯と魔人の描写がリアルで惹き込まれる。…
内藤眞弓『「一生安心」にだまされるな! 医療保険はすぐやめなさい』(ダイヤモンド社、2013) もっと早く読めばよかった。 そんな感想をもらす読者も多いだろうと思われる。評者もその一人だ。受取り方は人によりさまざまだろうけれど。 医療保険に現に入っ…
梨木香歩が「本の旅人」に連載した「きみにならびて野にたてば」の第7回(2013年4月号)について。 (承前) 「アザリア」同人の河本の話。嘉内から完膚なきまでの拒絶を受ける賢治。梨木は嘉内の遺族に会って話を訊く。韮崎で嘉内の次男、保阪康夫から聞か…
敬語講師の山岸弘子さんによると〈大和言葉が注目されています。この二年間に二十冊ほどの本が出版されて〉いるとのことだ。 「日常で使える大和言葉」として山岸さんがテレビ番組「視点・論点」(NHK 20160125)で次のような文例を紹介した。電子メールやLI…
梨木香歩が「本の旅人」に連載した「きみにならびて野にたてば」の第5-6回(2013年2-3月号)について。 (承前) キーワードとして「伝わること」「手紙」「風」など。天才同士の出会い。保阪康夫(嘉内の次男)への直接取材。二人の友情の術に自らかかるこ…
梨木香歩が「本の旅人」に連載した「きみにならびて野にたてば」の第4回(2013年1月号)について。 (承前) 宮沢賢治と保阪嘉内との友情の原点たる岩手山登山。その資料。「電信柱」や「空」の背景。作者梨木香歩にとって詩とは。伝わること。 今回は「『宮…