本
福岡伸一『フェルメール 隠された次元』(木楽舎、2019) 17世紀のオランダの画家フェルメールの「稽古の中断」という絵に描かれた楽譜が本物の楽譜ではないか。だとすれば、この絵から、音楽が聞こえてくるのではないか。そう思った生物学者の著者が探求を…
藤井太洋『公正的戦闘規範』(早川書房、2017) 著者初の短篇集。どの短篇にも藤井太洋の世界観がしっかり刻まれ、物語の世界を読者も共有することができる。収められた短篇は次の通り(括弧内は初出)。1. コラボレーション(SFマガジン、2013)2. 常夏の夜(『…
Robert Galbraith, Lethal White (2018) 600ページを超える大作。プロットは複雑。英国の国務大臣の謎の死をめぐり、多数の人脈がからみ、ストライクとロビンによる捜査が進展する。通常、ミステリの最後の方では謎解きがあり、ペースが落ちるものだが、本作…
Ann Cleeves, Cold Earth (2016) このシリーズを読み終えるといつも虚脱感に襲われる。作品世界からお別れしなければならないからだ。今回もたっぷりシェトランドのミステリに浸かった。風や雨や冷気が伝わってくるような筆致には、毎度のことながら、ぞくぞ…
キム・チュイ『小川』(彩流社、2012) キム・チュイ『小川』 ベトナム系カナダ人の自伝的小説。アジア系の北米の作家は多数存在する。その中に、本書のような女性の作家も少なくない。だが、本書のような味わいをもった作品はめずらしい。その点がおそらく…
リービ英雄『英語でよむ万葉集』 リービ氏の万葉集関連の著書では最も親しみやすい書。〈約50首の対訳それぞれに作家独自のエッセイを付す,「世界文学としての万葉集」〉を語った本。リービ氏の言わんとするところを最もよく伝えるのは、おそらく、この書で…
「週刊ニューズウィーク日本版」〈特集:テロ時代の海外旅行〉(2018年5月1日・8日合併号) 特集は「テロ時代の海外旅行」。ありそうでなかった特集だ。次のような構成。・海外旅行はリスクになったのか・「危なくない」国 丸分かりマップ・あの観光地は大丈夫…
J, K. Rowling, Harry Potter and the Cursed Child - Parts One and Two (Special Rehearsal Edition): The Official Script Book of the Original West End Production (Little Brown, 2016) Rowling, Cursed Child 本物語で重要なハリ・ポタ(Harry Potte…
『劇場』 又吉直樹 又吉直樹『劇場』 期待を裏切られることはない。作者の文章はますます磨きがかかり、演劇論を通して語られる感性のきらめきは本書の随所に見られる。前作と合わせて、広く芸術論としても読めるし、クリエータを目指す人が読んでもきっと得…
『Man’yo Luster―万葉集』 リービ英雄 Levy Hideo- Man'yo Luster 美しい本である。万葉集の抜粋とその英訳(リービ英雄)、イメジ写真(井上博道)から構成された大型本だ。全380頁。歌の読み下し文および口訳は中西進『万葉集 全訳注 原文付』に拠る。この本を…
ポンド氏の逆説【新訳版】 (創元推理文庫) G・K・チェスタトン G. K. Chesterton - The Paradoxes of Mr Pond 読むと覚醒されざるを得ない小説がある。これはその種の小説だ。わたしは覚醒させられる作品が好きだ。チェスタトンのこの短篇集は短篇でここまで…
Tanis Helliwell, Summer with the Leprechauns: the Authorized Edition (Wayshower Enterprises, 2012) 驚異の書だ。このレベルの接触をした人物はルドルフ・シュタイナー以来かもしれない。つまり、百年ぶり。といっても、あくまで人間の時間の尺度によれ…
Jeanne Crane, Visiting the Thin Places of Celtic Ireland (2013) この書には感謝しかない。客観的に見れば、素人同然の著者が書いた旅行案内ともつかぬ旅行記ともつかぬ小冊子といえる。しかし、その著者が熱烈な愛情を注ぎ、猛烈に読書し、探究心いっぱ…
Bob Dylan, 100 Songs (Simon & Schuster, 2017) 意外なことにボブ・ディランの手頃な詩集がなかった。2016年のノーベル文学賞受賞以来、世界中の大学で少しづつディランが教えられ始めているけれども、適当なサイズの詩集がなかった。このほど出た、この百…
月村了衛『追想の探偵』(双葉社、2017) 月村了衛の幅の広さを思い知らされる作品。面白かった。「機龍警察」シリーズの読者なら、著者がメカやSFに詳しいことはよく知っているけれど、ファン層のマニアック度が半端でない、特撮物に焦点をしぼった作品を書く…
青山繁晴『危機にこそぼくらは甦る 新書版 ぼくらの真実』(扶桑社、2017) 『ぼくらの真実』にあとがきの形で大幅に加筆した新書版。冒頭のカラー写真多数およびあとがきが充実している。ただ、核になる部分はやはり『ぼくらの真実』にあると思われる。本文に…
西和彦『定年後の暮らしの処方箋』(幻冬舎、2017) 著者「西和彦」のことを、あのアスキーの西和彦氏と勘違いして手に取った。読んでみて別人と判明。NPO法人住環境ネット理事の西和彦氏であり、建築物の商品企画・市場開発に従事してきた人物だった。著者は…
Life 'Bob Dylan' (2016) ハードカバー版(2012)をボブ・ディランのノーベル文学賞受賞を機に関連する序文をくわえ電子書籍化したもの。元のハードカバーは96ページで、この長さなら、内容がおもしろいこともあり、じゅうぶん読み切れる。Life 誌の編集者た…
「すばる」2017年8月号 横尾忠則+鴻巣友季子「宇宙的広がりを読み解く——ボブ・ディランの詩(うた)の魅力」25ページにわたる対談。題材はボブ・ディランの 'Blowin' in the Wind'.横尾はディランと意外な関係がある。1984年か85年に、ジャケットをデザイン…
日本の医療費は38兆円。 これが医療が「商品」になると100兆円になるという。巨大な市場だ。米国は参入しようとして虎視眈々と機会を狙っている。 堤未香さんが自著『沈みゆく大国アメリカ』から次の箇所を朗読した(BS日テレ「久米書店」2016年6月5日再放送…
ジョイス、バラエティアートワークス『ユリシーズ(まんがで読破)』 世に言う「ブルームズデー」をえがくジョイスの小説をまんが化したもの。382ページあるけれども、おもしろいのでまったく退屈しない。 アイルランド・ダブリンの1904年6月16日の一日をえが…
横山秀夫『深追い』 横山秀夫は短編でも抜群のストーリーテラーだ。 例えば、冒頭の表題作。「深追い」とは刑事のある種の習性を示唆する何とも地味なタイトルで、正直あまり期待せずに読み始める。ところが、物語が進むにつれて「深追い」の真の意味がわか…
ポール・モーガン『ペラギウス・コード -古代ローマの残照の彼方にー』 4-5世紀のローマ帝国の末期的状況をアウグスティヌスの論敵であったペラギウスを中心にえがいた歴史小説。原著は2005年にオーストラリアのペンギン・ヴァイキング社から The Pelagius …
中田考『イスラームのロジック―アッラーフから原理主義まで』 目次 入門書ではない 普遍性 現代から過去へ 二〇世紀 イスラエル 多神教 vs. 一神教 イスラームとヨーロッパ 十字軍パラダイム 入門書ではない イスラームに関する入門書とはいえない。イスラー…
太宰治の短編小説「善蔵を思う」(1940年4月)は表題と中身が合わぬ。善蔵とは太宰の同郷の作家、葛西善蔵のことなのであるが、作中にはそれらしき人物が登場しない。ゆえに、読んだ人は表題の意味について首をかしげることになる。 主人公はDという青森出身…
ドストエフスキー「キリストのヨルカに召された少年」 フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(1821-1881)が晩年に「作家の日記」誌1876年1月号に発表した短篇。「キリストのヨルカに召されし少年」の題でも知られる。 ヨルカはクリスマス・ツリー…
森住明弘『環境とつきあう50話』 ぜひ電子書籍化してほしい。岩波ジュニア新書には良い本が多いが、この本もジュニア新書の名著のひとつだ。 タイトルからすると気軽な話題が多そうだが、読んでみると、どれもけっこう重い話だ。大げさにいうと、生存に関わ…
中谷宇吉郎「アラスカの氷河」 雪の博士として知られる中谷宇吉郎の紀行文。アラスカで見聞した氷河の美を綴った文章。 中谷博士のことばで「雪は天から送られた手紙である」というのがある。世界で初めて人工雪を作るのに成功した科学者ということをたとえ…
野上秀雄『歴史の中のエズラ・パウンド』 考えてみれば、エズラ・パウンド(米国詩人)は片山広子(日本の歌人、翻訳家)や芥川龍之介と同時代人である。パウンドが1885年生まれ、片山が1878年生まれ、芥川が1892年生まれである。 それがどうしたと言われそ…
芥川龍之介「三つのなぜ」 芥川龍之介(1892-1927)の最晩年の短篇小説である。 1927年に発表された。ところが、作品に「(一五・四・一二)」の但書が附されている。大正15(1926)年4月12日と、わざわざ記されていることになる。これは何を意味するのか。 …