本
ポンド氏の逆説【新訳版】 (創元推理文庫) G・K・チェスタトン G. K. Chesterton - The Paradoxes of Mr Pond 読むと覚醒されざるを得ない小説がある。これはその種の小説だ。わたしは覚醒させられる作品が好きだ。チェスタトンのこの短篇集は短篇でここまで…
日本の医療費は38兆円。 これが医療が「商品」になると100兆円になるという。巨大な市場だ。米国は参入しようとして虎視眈々と機会を狙っている。 堤未香さんが自著『沈みゆく大国アメリカ』から次の箇所を朗読した(BS日テレ「久米書店」2016年6月5日再放送…
ジョイス、バラエティアートワークス『ユリシーズ(まんがで読破)』 世に言う「ブルームズデー」をえがくジョイスの小説をまんが化したもの。382ページあるけれども、おもしろいのでまったく退屈しない。 アイルランド・ダブリンの1904年6月16日の一日をえが…
横山秀夫『深追い』 横山秀夫は短編でも抜群のストーリーテラーだ。 例えば、冒頭の表題作。「深追い」とは刑事のある種の習性を示唆する何とも地味なタイトルで、正直あまり期待せずに読み始める。ところが、物語が進むにつれて「深追い」の真の意味がわか…
ポール・モーガン『ペラギウス・コード -古代ローマの残照の彼方にー』 4-5世紀のローマ帝国の末期的状況をアウグスティヌスの論敵であったペラギウスを中心にえがいた歴史小説。原著は2005年にオーストラリアのペンギン・ヴァイキング社から The Pelagius …
中田考『イスラームのロジック―アッラーフから原理主義まで』 目次 入門書ではない 普遍性 現代から過去へ 二〇世紀 イスラエル 多神教 vs. 一神教 イスラームとヨーロッパ 十字軍パラダイム 入門書ではない イスラームに関する入門書とはいえない。イスラー…
太宰治の短編小説「善蔵を思う」(1940年4月)は表題と中身が合わぬ。善蔵とは太宰の同郷の作家、葛西善蔵のことなのであるが、作中にはそれらしき人物が登場しない。ゆえに、読んだ人は表題の意味について首をかしげることになる。 主人公はDという青森出身…
ドストエフスキー「キリストのヨルカに召された少年」 フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(1821-1881)が晩年に「作家の日記」誌1876年1月号に発表した短篇。「キリストのヨルカに召されし少年」の題でも知られる。 ヨルカはクリスマス・ツリー…
森住明弘『環境とつきあう50話』 ぜひ電子書籍化してほしい。岩波ジュニア新書には良い本が多いが、この本もジュニア新書の名著のひとつだ。 タイトルからすると気軽な話題が多そうだが、読んでみると、どれもけっこう重い話だ。大げさにいうと、生存に関わ…
中谷宇吉郎「アラスカの氷河」 雪の博士として知られる中谷宇吉郎の紀行文。アラスカで見聞した氷河の美を綴った文章。 中谷博士のことばで「雪は天から送られた手紙である」というのがある。世界で初めて人工雪を作るのに成功した科学者ということをたとえ…
野上秀雄『歴史の中のエズラ・パウンド』 考えてみれば、エズラ・パウンド(米国詩人)は片山広子(日本の歌人、翻訳家)や芥川龍之介と同時代人である。パウンドが1885年生まれ、片山が1878年生まれ、芥川が1892年生まれである。 それがどうしたと言われそ…
芥川龍之介「三つのなぜ」 芥川龍之介(1892-1927)の最晩年の短篇小説である。 1927年に発表された。ところが、作品に「(一五・四・一二)」の但書が附されている。大正15(1926)年4月12日と、わざわざ記されていることになる。これは何を意味するのか。 …
西田幾多郎「読書」 京都に「哲学の道」と呼ばれる道がある。銀閣寺道から永観堂までつづく疎水ぞいの美しい小径である。近くに下宿していたのでよく通った。季節ごとに表情をかえ、歩きながら思索するにもってこいの道だ。 その小径に哲学の名が冠せられる…
青柳碧人『浜村渚の計算ノート』 著者のデビュー作。 人気を博しシリーズ化されている。2014年時点でシリーズが6巻目まで刊行されている。 義務教育における理数系科目の削減に憤った数学者が数学の復権を迫るために数学的謎をからめたテロをしかけ、それに…
門田充宏『風牙』 第五回創元SF短編賞(2013年度)の受賞作二作品のひとつ。本作品の受賞については今後、議論になるかもしれない。選考委員三名の意見が割れ、うち二名が高く評価した作品(本作品ではない)でなく、本作品のほうが《年刊日本SF傑作選》に収…
池澤夏樹『骨は珊瑚、眼は真珠』 死んだ夫が残された妻にあてて書いた形をとる小説(1995年)。 小説は夫の骨を妻がひろう場面から始まる。それからしばらく、死を前にしたころについての夫の回想がつづく。 家に戻った妻は短い英語の文を骨壷の前にピンで止…
松岡圭祐『万能鑑定士Qの謎解き』 「万能鑑定士Qシリーズ」通巻二十冊目。のちにシリーズ全体を振り返れば莉子と悠斗の関係に大切な変化が訪れた巻として記憶されるだろうと、神谷竜介は解説に書く。そうかもしれない。 2014年5月刊である。社会の最新の事情…
水樹和佳子『イティハーサ(1)』 三千頁にわたる物語が幕を開ける。ときは超古代。 百年前の洪水を経た島。氷河時代が終わった頃、およそ一万二千年前の世界。 古代の人と神とのかかわりを描いた作品といわれる。 もともと、少女漫画雑誌「ぶ〜け」(集英社…
池澤夏樹『アステロイド観測隊』 この話にはよく「奥」が登場する。 小惑星の観測を指揮する教授と酒とが不可分であることを説明するのに「彼の業績の大半はアルコールの霞の奥から何の前触れもないままいきなり現れたのだ」などという。彼を師と仰ぐ学生に…
大阪の詩誌「びーぐる」第7号(澪標、2010年4月) いちおう、まじめな意図をもって企画されたと思われる特集「面白クテ為ニナル 詩の書き方・実践篇」。 しかし、実際にはそれが困難なことは詩人自身が一番よく知っているだろう。それでも、誠実にその問いに…
柴崎友香『春の庭』 読んで柴崎友香とわかる文体があるかといえば、ある。いわばカメラのような文体だ。本人は「静止した写真というよりも移り変わっていく景色に近い」といい、「カメラが常に移動していく、車窓のような写真」だという。 読者のほうからみ…
梶井基次郎『檸檬』 詩人・小説家の小池昌代が「人生を変えた一冊」に挙げていた。檸檬という核を置く。爆弾のように作品の中に置くというやり方が、まるで詩だと。 中学生のときに初めて読んで、そう思ったという。ともかく詩と名のつくものなら、なんでも…
芥川龍之介「沼地」 芥川龍之介の短篇。発表は1919年。一緒に発表された「蜜柑」のほうが有名かもしれない。比べてこの「沼地」はあまり好評をきかない。でも、ある種の傑作だと思う。 この作品に入れ込んだと思われる特設ページがある。Marcel Duchamp の「…
内藤誼人『人は「暗示」で9割動く!』 そもそも会話には多くの「暗示」が含まれている。相手はその暗示をキャッチしている。本音は丸見えなのである。 そういうことを認識したうえでコミュニケーションをうまくやるにはどうすればよいか。 〈「わかってほしい…
森鴎外「翻訳に就いて」 本名の森林太郎名で書かれた「翻譯に就いて」には翻訳者森鴎外の本音が瞥見される。 翻訳者によって目指すところは異なると思うが、森鴎外ははっきりと自分の翻訳の目指すところをわきまえていたように見える。 それを簡潔に本論の用…
コンノケンイチ『月は神々の前哨基地だった』 知る人ぞ知る書である。 著者コンノケンイチ(今野健一、1936-2014)の執筆活動は多岐にわたったが、本書(1987)がひとつの大事な出発点だった。本書が出た頃は日本におけるUFO研究熱はさかんで、あらゆる分野…
町山智浩『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』 米国在住の映画評論家、町山智浩の発言に時々宝がふくまれている。 そのことを初めて実感したのが、映画「Hot Fuzz」の劇場公開を求める会の運動があった2008年頃だった。その運動についてふれ…
『資本論 (まんがで読破)』 ドイツの経済学者、哲学者カール・マルクス(1818-83)の『資本論』はマルクス経済学最大の古典だ。本書はマルクスみずからの手によって世に問われた第1巻(1867)をベースに物語化したまんがだ。大著である原書への橋渡しになる…
横山徳爾『ロングマン英語引用句辞典』 加島祥造『引用句辞典の話』(1990)によれば、本書(1986)は日本初の「翻訳・英文引用句辞典」だという。だが、その後もその種の引用句辞典は出版されていない。ゆえに、空前絶後。 もっとも、本当のことをいえば、本…
知里真志保「学問ある蛙の話」 著者の知里真志保(1909-1961)はアイヌ民族出身の言語学者。『アイヌ神謡集』を編纂した知里幸恵の弟。 アイヌ語に表れたアイヌの考え方を、例をあげ、分かりやすく、するどく述べる。アイヌ語の「ホロカ」(後へ戻る、の意)…