Tigh Mhíchíl

詩 音楽 アイルランド

記事一覧

近未来なのに懐かしい

藤井太洋『公正的戦闘規範』(早川書房、2017) 著者初の短篇集。どの短篇にも藤井太洋の世界観がしっかり刻まれ、物語の世界を読者も共有することができる。収められた短篇は次の通り(括弧内は初出)。1. コラボレーション(SFマガジン、2013)2. 常夏の夜(『…

コーモラン・ストライク・シリーズ第4作

Robert Galbraith, Lethal White (2018) 600ページを超える大作。プロットは複雑。英国の国務大臣の謎の死をめぐり、多数の人脈がからみ、ストライクとロビンによる捜査が進展する。通常、ミステリの最後の方では謎解きがあり、ペースが落ちるものだが、本作…

Ann Cleeves のシェトランド・シリーズ第7作

Ann Cleeves, Cold Earth (2016) このシリーズを読み終えるといつも虚脱感に襲われる。作品世界からお別れしなければならないからだ。今回もたっぷりシェトランドのミステリに浸かった。風や雨や冷気が伝わってくるような筆致には、毎度のことながら、ぞくぞ…

歯と髪はその人の源だ

キム・チュイ『小川』(彩流社、2012) キム・チュイ『小川』 ベトナム系カナダ人の自伝的小説。アジア系の北米の作家は多数存在する。その中に、本書のような女性の作家も少なくない。だが、本書のような味わいをもった作品はめずらしい。その点がおそらく…

日本の文学意識の根源を異人のもたらした文学にみる

折口信夫『日本文学の発生』 折口信夫の文学論のうち、日本文学の発生にかかわる根本問題を、次の3種の文献を引きつつ考察したもの。・播磨風土記・神武紀・神代紀もちろん、すべて漢文で引用されている。まず、前提として、日本の国土に対して、他界が想定…

英詩としても見事なリービ英雄氏の英訳万葉集

リービ英雄『英語でよむ万葉集』 リービ氏の万葉集関連の著書では最も親しみやすい書。〈約50首の対訳それぞれに作家独自のエッセイを付す,「世界文学としての万葉集」〉を語った本。リービ氏の言わんとするところを最もよく伝えるのは、おそらく、この書で…

あの国へ旅行しても安全なのか

「週刊ニューズウィーク日本版」〈特集:テロ時代の海外旅行〉(2018年5月1日・8日合併号) 特集は「テロ時代の海外旅行」。ありそうでなかった特集だ。次のような構成。・海外旅行はリスクになったのか・「危なくない」国 丸分かりマップ・あの観光地は大丈夫…

秘密の使命を負った主人公たち

J, K. Rowling, Harry Potter and the Cursed Child - Parts One and Two (Special Rehearsal Edition): The Official Script Book of the Original West End Production (Little Brown, 2016) Rowling, Cursed Child 本物語で重要なハリ・ポタ(Harry Potte…

又吉直樹の小説第二作。前作で又吉の文体に魅了された人は本作も間違いなく「買い」

『劇場』 又吉直樹 又吉直樹『劇場』 期待を裏切られることはない。作者の文章はますます磨きがかかり、演劇論を通して語られる感性のきらめきは本書の随所に見られる。前作と合わせて、広く芸術論としても読めるし、クリエータを目指す人が読んでもきっと得…

万葉集の感性のコアの部分は「コンテンポラリ」であると考え英訳された詩と美しい写真と

『Man’yo Luster―万葉集』 リービ英雄 Levy Hideo- Man'yo Luster 美しい本である。万葉集の抜粋とその英訳(リービ英雄)、イメジ写真(井上博道)から構成された大型本だ。全380頁。歌の読み下し文および口訳は中西進『万葉集 全訳注 原文付』に拠る。この本を…

ボルヘスがチェスタトンのベストに挙げた「黙示録の三人の騎者」を含む傑作短篇集

ポンド氏の逆説【新訳版】 (創元推理文庫) G・K・チェスタトン G. K. Chesterton - The Paradoxes of Mr Pond 読むと覚醒されざるを得ない小説がある。これはその種の小説だ。わたしは覚醒させられる作品が好きだ。チェスタトンのこの短篇集は短篇でここまで…

レプラコーンとの夏——静修生活転じて異界の修行となる

Tanis Helliwell, Summer with the Leprechauns: the Authorized Edition (Wayshower Enterprises, 2012) 驚異の書だ。このレベルの接触をした人物はルドルフ・シュタイナー以来かもしれない。つまり、百年ぶり。といっても、あくまで人間の時間の尺度によれ…

手がかりの書——アイルランドの聖地探訪案内

Jeanne Crane, Visiting the Thin Places of Celtic Ireland (2013) この書には感謝しかない。客観的に見れば、素人同然の著者が書いた旅行案内ともつかぬ旅行記ともつかぬ小冊子といえる。しかし、その著者が熱烈な愛情を注ぎ、猛烈に読書し、探究心いっぱ…

ボブ・ディランの最新歌集(百歌選)を手に取ろう

Bob Dylan, 100 Songs (Simon & Schuster, 2017) 意外なことにボブ・ディランの手頃な詩集がなかった。2016年のノーベル文学賞受賞以来、世界中の大学で少しづつディランが教えられ始めているけれども、適当なサイズの詩集がなかった。このほど出た、この百…

特撮マニアの記憶に残るヒーローを捜し出す! 敏腕編集者の物語

月村了衛『追想の探偵』(双葉社、2017) 月村了衛の幅の広さを思い知らされる作品。面白かった。「機龍警察」シリーズの読者なら、著者がメカやSFに詳しいことはよく知っているけれど、ファン層のマニアック度が半端でない、特撮物に焦点をしぼった作品を書く…

危機意識を覚醒させる契機

青山繁晴『危機にこそぼくらは甦る 新書版 ぼくらの真実』(扶桑社、2017) 『ぼくらの真実』にあとがきの形で大幅に加筆した新書版。冒頭のカラー写真多数およびあとがきが充実している。ただ、核になる部分はやはり『ぼくらの真実』にあると思われる。本文に…

読者と共に定年後を考える楽しい本

西和彦『定年後の暮らしの処方箋』(幻冬舎、2017) 著者「西和彦」のことを、あのアスキーの西和彦氏と勘違いして手に取った。読んでみて別人と判明。NPO法人住環境ネット理事の西和彦氏であり、建築物の商品企画・市場開発に従事してきた人物だった。著者は…

ボブ・ディランの人生をよぎった謎の人物

Life 'Bob Dylan' (2016) ハードカバー版(2012)をボブ・ディランのノーベル文学賞受賞を機に関連する序文をくわえ電子書籍化したもの。元のハードカバーは96ページで、この長さなら、内容がおもしろいこともあり、じゅうぶん読み切れる。Life 誌の編集者た…

ボブ・ディランの 'Blowin' in the Wind' をめぐる横尾忠則と鴻巣友季子の対談

「すばる」2017年8月号 横尾忠則+鴻巣友季子「宇宙的広がりを読み解く——ボブ・ディランの詩(うた)の魅力」25ページにわたる対談。題材はボブ・ディランの 'Blowin' in the Wind'.横尾はディランと意外な関係がある。1984年か85年に、ジャケットをデザイン…

ブータン人の目を通して見る現代日本の姿

伊坂 幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』 伊坂 幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』を読むよう勧められた。ボブ・ディランの歌が出てくるからだ。読んでみると、怒りがこみ上げてくる。読むように言われたことに対してではない。小説に描かれた暴力にだ…

mythopoeiaとしてのSF

アーサー・C・クラーク『地球幼年期の終わり【新版】』 (創元SF文庫、2017) アーサー・C・クラーク(1917-2008、英国のSF作家)の生誕百年にあたり、今やSFの古典の名を不動のものにしている『地球幼年期の終わり』が新版として、東京創元社から創元SF文庫の…

祈りの力と病気について霊的成長の観点から論じる

花咲 てるみ『なぜ祈りの力で病気が消えるのか いま明かされる想いのかがく』(明窓出版、2017) 本書は祈りの力でなぜ病気が消えるのかをテーマにしている。しかし、議論は祈りから始まらず、生れ変わりから始まる。転生を前提として、心に二つあること、体に…

発光しそうな短篇

森鷗外「花子」 発光しそうな短篇 森鴎外の短篇「花子」を読む。短篇の名手として有名だが、それだけでなく、散文詩のような味わいがある。ロダンの為事場の描写。〈或る別様の生活がこの間を領している。それは声の無い生活である。声は無いが、強烈な、錬…

過労死の科学的判定をめぐるミステリ

松岡圭祐『水鏡推理6 クロノスタシス』(講談社、2017) 過労死の科学的判定をめぐるミステリ 省庁における過労死事例の多発などを受け、過労死を客観的に判定する「バイオマーカー」が提唱された。その危険値を超えた者は過労死の危険ありとして休養が命じら…

栞子をめぐる人間関係が着地点を迎えるのか。シェークスピアを補助線とする波乱の物語

三上延『ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~』 (メディアワークス文庫, 2017) ビブリア古書堂シリーズの完結篇。ついに主人公・栞子をめぐる人間関係が一応の着地点を迎えることになるのか。本当にこれで終わりだと思ったら、作者あとがき…

秘密を持った子供は時として「無邪気な子供」を演ずる必要がある

森奈津子『語る石』(e-NOVELS, 2017) 森奈津子の短篇小説「語る石」(e-NOVELS)は幼い子が父の机の上にふしぎな石を見つけるところから始まる。 その石は子供である麻衣子に様々なことを語り聞かせる。その中で、心に最も強く残ったのは、「人間の肉体と魂…

濃密な幻想世界を描く短篇

皆川博子『雪花散らんせ』 著者65歳の時の作品。『あの紫は ― わらべ唄幻想』(1994)に収録。2017年になって e-NOVELS から発行された。e-NOVELS は1999年に始まった、プロの作家集団によるオンライン販売。最近、Kindle にも入ってきたようだ。1999年当時…

レ・ファニュの意外な一面を表す表題作

J・S・レ・ファニュ『ドラゴン・ヴォランの部屋』(創元推理文庫、2017) レ・ファニュ『ドラゴン・ヴォランの部屋』 アイルランドの作家シェリダン・レ・ファニュ(1814-73)の日本における作品集の第2弾。第1弾『吸血鬼カーミラ』(平井呈一訳、1970)から47…

平成という元号の知られざる成立史

青山繁晴『平成紀』(幻冬舎、2016) 青山繁晴『平成紀』 読み終わった後もその本の世界がしっかりと残る書物がある。この本はそういう書物だ。小説だけれど、小説ではない。平成という元号がどうやって決まったかをかぎりなく真相に近くまで描く点ではノンフ…

山田正紀のデビュー作。言語学・神学にからむSF

山田正紀『神狩り』(KADOKAWA / 角川書店、2002) 山田正紀『神狩り』 山田正紀のデビュー作(1974)。第6回星雲賞日本短編部門を受賞している。発表後30年を経て続編『神狩り2 リッパー』(2005)が発表されている。表題通り、神を狩ろうとする無謀な企てを…