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Tigh Mhíchíl

詩 音楽 アイルランド

記事一覧

シスター・スタンの珠玉の断想集

Sister Stan, Stillness: Through My Prayer (Town House, 2005) アイルランドのシスター・スタンの断想をテーマごとに集めた本。テーマは・beyond fear・trust・letting go・mystery・truth・awakening・acceptance・stillnessの8つ。シスター・スタンの読…

ピアノの内部から宇宙を見る

宮下奈都『羊と鋼の森』(文藝春秋、2015) 宮下奈都は調律師の理想を表すことばを探った。そして、詩人・原民喜のごく短い、千字足らずの随筆「沙漠の花」から次のことばを引いた。 明るく静かに澄んで懐しい文体、少しは甘えてゐるやうでありながら、きび…

ゾーヴァのグミベアー

ドイツのミヒャエル・ゾーヴァの絵を3冊の絵本で愉しんだ。 1. ちいさなちいさな王様2. 思いがけない贈り物3. クマの名前は日曜日まず、『ちいさなちいさな王様』。 アクセル・ハッケ作(講談社、1996)。内容にふかみがあり絵が魅力を高めている。「大人の…

うーん、ちょっとちゃう

ジョン・クラッセン『ちがうねん』(クレヨンハウス、2012) 大阪は藤井寺出身の絵本作家・長谷川義史が大阪弁で翻訳した絵本。大きな魚が帽子を盗られた。果たして取り返せるのか?すっとぼけた小魚が犯人と初めから分かっている。ミステリでいうなら「倒叙…

静と動のミステリ絵本

ジョン・クラッセン『どこいったん』(クレヨンハウス、2011) ジョン・クラッセンの2つの絵本『どこ いったん』(クレヨンハウス、2011)と『ちがうねん』(クレヨンハウス、2012)は大阪は藤井寺出身の絵本作家・長谷川義史が大阪弁で翻訳している。 この…

怪異を超えた神話的存在

葉山 透『0能者ミナト (9)』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス、2015) ダイダラボッチという名前は聞いたことがあった。宮崎駿の映画「もののけ姫」で見たことがある。 だから、大体のイメジはあったものの、本作に出てきたダイダラボッチは、もっと神…

遺伝の法則を復習しよう

葉山 透『0能者ミナト (8)』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス、2014) 霊能力などによらず、論理と理性で怪異の問題を解くがゆえに、その筋では評判の悪い湊が主人公のシリーズも第8巻まで来た。今回の怪異事件は人里離れた館で発見されるふたりの赤…

比較神話学と詩的直観

アレクサンドル・アレクセビッチ ワノフスキー『火山と日本の神話』(桃山堂、2016) 亡命ロシア人として日本にくらしたアレクサンドル・ワノフスキー(1874-1967)の著作『火山と太陽』(1955)を収め、多角的に検討した書。主 として古事記の新解釈を行い…

切り札をあと2枚切る衝撃の展開

松岡圭祐『探偵の鑑定2』(講談社、2016) 『探偵の鑑定1』の続き。 ※『1』未読の人はご注意ください。 『1』で「探偵の探偵」玲奈と、「万能鑑定士」莉子という2枚の切り札を切った著者。二大人気シリーズの主人公を合流させた展開に驚かされた。 が、『2…

人気2シリーズのヒロイン豪華共演

松岡圭祐『探偵の鑑定1』(講談社、2016) 探偵の探偵、玲奈の世界に万能鑑定士Q、莉子がからむ。このあり得ない設定は、いわば著者の得意技だ。そこまでは想定の範囲内だったけど、読んでみて、うならされた。まさか、こうなるとは。 どうやら、本作で2シ…

脳ほんらいの活性を取戻すことはできるのか

大橋力『音と文明』(岩波書店、2003) 言語脳の知に覆いつくされた現代。はたして非言語脳の知を回復する手立てがあるのか。そんなスリリングな問いを立て、どこまで分かり、どこまでが可能なのかを、諸学の成果を結集し、環境学者として、音楽家として、緻密…

端正な恋物語(同工異曲にあらず)

南潔『黄昏古書店の家政婦さん ~下町純情恋模様~』 誤解を受けやすいタイトルと表紙。しかし、読んでみると、そんなことはない。 古書店と若い女性。この取合せから想像される、例の謎解きに富んだ、古書の蘊蓄満載の人気シリーズとは趣を異にする。 これ…

このベストセラーがなぜ読まれていないのか

ジャック・アタリ『21世紀の歴史』(作品社、2008) ジャック・アタリのこの本(原著2006年刊)は21世紀の今後を予測するうえで貴重な洞察や提言に満ちている。それだけでなく、過去の歴史についても創見(ひとによっては偏見ととるだろう)があふれている。 …

無知は弱さになる | 医療保険制度の将来

日本の医療費は38兆円。 これが医療が「商品」になると100兆円になるという。巨大な市場だ。米国は参入しようとして虎視眈々と機会を狙っている。 堤未香さんが自著『沈みゆく大国アメリカ』から次の箇所を朗読した(BS日テレ「久米書店」2016年6月5日再放送…

起源神話の脱構築━━もうひとつのプラハを幻視する

ミハル・アイヴァス『もうひとつの街』 チェコの作家ミハル・アイヴァスが1993年に書き2005年に大幅に改訂した小説。mythopoeia という言葉があるが、まさにそのような、神話的な詩とも詩的神話ともいえる作品。1949年10月30日プラハ生まれだが父親はクリミ…

絵解きは謎解きに通じる━━漢字の絵解きの面白さ

牧野恭仁雄『みんなで読み解く漢字のなりたち2 人の姿からうまれた漢字 みんなで読み解く漢字のなりたちシリーズ』 ふだん使う漢字は300の絵の組合せから成る。そういう観点から漢字を解き明かす「絵解き」はまだ新しい分野だという。 漢字の成立ちは今の楷…

読んでいる間、妙にドキドキする小説

川上弘美『センセイの鞄』 女性作家の作品で女性が「用を足す」場面が印象に残る小説はめずらしい。評者が知る限りでもあと一つしかない(ジェニファ・イーガン)。この「用足し」が小説の中の重要な場面に現れる。たいがい、主人公の女性とその先生とが、微…

ブログ読者の方へ

こんにちは。 以前にも書いたかもしれませんが、主として note に書くことが多いのが現況です。もし興味がおありの場合は、そちらを覗いてください。 このブログは月に1回程度更新する予定です。

1904年6月16日ダブリンの一日

ジョイス、バラエティアートワークス『ユリシーズ(まんがで読破)』 世に言う「ブルームズデー」をえがくジョイスの小説をまんが化したもの。382ページあるけれども、おもしろいのでまったく退屈しない。 アイルランド・ダブリンの1904年6月16日の一日をえが…

三ツ鐘署が舞台の読ませる短編ミステリ集

横山秀夫『深追い』 横山秀夫は短編でも抜群のストーリーテラーだ。 例えば、冒頭の表題作。「深追い」とは刑事のある種の習性を示唆する何とも地味なタイトルで、正直あまり期待せずに読み始める。ところが、物語が進むにつれて「深追い」の真の意味がわか…

第六回創元SF短編賞(2015)受賞作

宮澤伊織『神々の歩法』 うーん。これが受賞作かというのが第一印象。 ニーナの運命が気になるというのが第二印象。 英語の発音がおかし過ぎて唖然というのが第三印象。 そのほか、作品ではないが審査員の短編観に大丈夫かと思った。これが判った以上、今後…

「歴史小説」以前である

ポール・モーガン『ペラギウス・コード -古代ローマの残照の彼方にー』 4-5世紀のローマ帝国の末期的状況をアウグスティヌスの論敵であったペラギウスを中心にえがいた歴史小説。原著は2005年にオーストラリアのペンギン・ヴァイキング社から The Pelagius …

飛浩隆「La Poésie sauvage」の前日譚

飛浩隆『自生の夢』 飛浩隆「La Poésie sauvage」(「現代詩手帖」2015年5月号)が本作「自生の夢」(2009)の延長として生まれた。「La Poésie sauvage」に感じ取れたのと同質の詩情(ポエジー)を期待したが本作にそれはない。むしろ、得体の知れぬ巨悪の…

全人類に向けられた普遍的メッセージとしてイスラームに向き合う

中田考『イスラームのロジック―アッラーフから原理主義まで』 目次 入門書ではない 普遍性 現代から過去へ 二〇世紀 イスラエル 多神教 vs. 一神教 イスラームとヨーロッパ 十字軍パラダイム 入門書ではない イスラームに関する入門書とはいえない。イスラー…

太宰治「善蔵を思う」の表題と中身━━吉本隆明を手がかりに

太宰治の短編小説「善蔵を思う」(1940年4月)は表題と中身が合わぬ。善蔵とは太宰の同郷の作家、葛西善蔵のことなのであるが、作中にはそれらしき人物が登場しない。ゆえに、読んだ人は表題の意味について首をかしげることになる。 主人公はDという青森出身…

ドストエフスキーの短篇「キリストのクリスマス・ツリーのもとの少年」

ドストエフスキー「キリストのヨルカに召された少年」 フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(1821-1881)が晩年に「作家の日記」誌1876年1月号に発表した短篇。「キリストのヨルカに召されし少年」の題でも知られる。 ヨルカはクリスマス・ツリー…

短編集『オーリエラントの魔道師たち』の一篇

乾石智子『紐結びの魔道師: 1 』 山形県の作家・乾石智子のファンタジー作品。短編集『オーリエラントの魔道師たち』に収められた四篇のうちの一篇「紐結びの魔道師」を、「オーリエラント」の世界の入門書として独立させたもの。 紐結びの魔道師と貴石占術…

環境の視点で世の中をながめわたすと

森住明弘『環境とつきあう50話』 ぜひ電子書籍化してほしい。岩波ジュニア新書には良い本が多いが、この本もジュニア新書の名著のひとつだ。 タイトルからすると気軽な話題が多そうだが、読んでみると、どれもけっこう重い話だ。大げさにいうと、生存に関わ…

アラスカの氷河と墨流しの共通点とは

中谷宇吉郎「アラスカの氷河」 雪の博士として知られる中谷宇吉郎の紀行文。アラスカで見聞した氷河の美を綴った文章。 中谷博士のことばで「雪は天から送られた手紙である」というのがある。世界で初めて人工雪を作るのに成功した科学者ということをたとえ…

モダニズムと神智学 Modernism & Theosophy

野上秀雄『歴史の中のエズラ・パウンド』 考えてみれば、エズラ・パウンド(米国詩人)は片山広子(日本の歌人、翻訳家)や芥川龍之介と同時代人である。パウンドが1885年生まれ、片山が1878年生まれ、芥川が1892年生まれである。 それがどうしたと言われそ…

ソロモンとシバの女王を芥川と片山に重ねてみると

芥川龍之介「三つのなぜ」 芥川龍之介(1892-1927)の最晩年の短篇小説である。 1927年に発表された。ところが、作品に「(一五・四・一二)」の但書が附されている。大正15(1926)年4月12日と、わざわざ記されていることになる。これは何を意味するのか。 …

覗いて見ることが読書という哲学者が読書を語る

西田幾多郎「読書」 京都に「哲学の道」と呼ばれる道がある。銀閣寺道から永観堂までつづく疎水ぞいの美しい小径である。近くに下宿していたのでよく通った。季節ごとに表情をかえ、歩きながら思索するにもってこいの道だ。 その小径に哲学の名が冠せられる…

中ニの数学少女が悪の組織と謎解きで対決する

青柳碧人『浜村渚の計算ノート』 著者のデビュー作。 人気を博しシリーズ化されている。2014年時点でシリーズが6巻目まで刊行されている。 義務教育における理数系科目の削減に憤った数学者が数学の復権を迫るために数学的謎をからめたテロをしかけ、それに…

ポテンシャルを掘り起こす視点の力

菅俊一『まなざし』 執筆・編集・出版関係者向けのウエブサイトDOTPLACE(ドットプレイス)のレーベルからの第一弾として2014年7月に刊行された。同ウェブサイトでの連載の第1回から第12回までをまとめた電子書籍。電子書籍向けの特別の文章が附属する。連載…

記憶データのレコーディング

門田充宏『風牙』 第五回創元SF短編賞(2013年度)の受賞作二作品のひとつ。本作品の受賞については今後、議論になるかもしれない。選考委員三名の意見が割れ、うち二名が高く評価した作品(本作品ではない)でなく、本作品のほうが《年刊日本SF傑作選》に収…

人の心の中以外の場所に痕跡を残したくない

池澤夏樹『骨は珊瑚、眼は真珠』 死んだ夫が残された妻にあてて書いた形をとる小説(1995年)。 小説は夫の骨を妻がひろう場面から始まる。それからしばらく、死を前にしたころについての夫の回想がつづく。 家に戻った妻は短い英語の文を骨壷の前にピンで止…

弥勒菩薩の帰属をめぐる日中の攻防

松岡圭祐『万能鑑定士Qの謎解き』 「万能鑑定士Qシリーズ」通巻二十冊目。のちにシリーズ全体を振り返れば莉子と悠斗の関係に大切な変化が訪れた巻として記憶されるだろうと、神谷竜介は解説に書く。そうかもしれない。 2014年5月刊である。社会の最新の事情…

壮大な物語の開幕━━超古代の人と神と

水樹和佳子『イティハーサ(1)』 三千頁にわたる物語が幕を開ける。ときは超古代。 百年前の洪水を経た島。氷河時代が終わった頃、およそ一万二千年前の世界。 古代の人と神とのかかわりを描いた作品といわれる。 もともと、少女漫画雑誌「ぶ〜け」(集英社…

笑いの奥に話の神髄が

池澤夏樹『アステロイド観測隊』 この話にはよく「奥」が登場する。 小惑星の観測を指揮する教授と酒とが不可分であることを説明するのに「彼の業績の大半はアルコールの霞の奥から何の前触れもないままいきなり現れたのだ」などという。彼を師と仰ぐ学生に…

詩誌「びーぐる」第7号「詩の書き方」特集号

大阪の詩誌「びーぐる」第7号(澪標、2010年4月) いちおう、まじめな意図をもって企画されたと思われる特集「面白クテ為ニナル 詩の書き方・実践篇」。 しかし、実際にはそれが困難なことは詩人自身が一番よく知っているだろう。それでも、誠実にその問いに…

『春の庭』と選評

柴崎友香『春の庭』 読んで柴崎友香とわかる文体があるかといえば、ある。いわばカメラのような文体だ。本人は「静止した写真というよりも移り変わっていく景色に近い」といい、「カメラが常に移動していく、車窓のような写真」だという。 読者のほうからみ…

詩の塊を宿した散文作品

梶井基次郎『檸檬』 詩人・小説家の小池昌代が「人生を変えた一冊」に挙げていた。檸檬という核を置く。爆弾のように作品の中に置くというやり方が、まるで詩だと。 中学生のときに初めて読んで、そう思ったという。ともかく詩と名のつくものなら、なんでも…

「沼地」ということばに訳もなく惹かれる

芥川龍之介「沼地」 芥川龍之介の短篇。発表は1919年。一緒に発表された「蜜柑」のほうが有名かもしれない。比べてこの「沼地」はあまり好評をきかない。でも、ある種の傑作だと思う。 この作品に入れ込んだと思われる特設ページがある。Marcel Duchamp の「…

倫敦の空と谷底の漱石

夏目漱石「永日小品」(新潮文庫『文鳥・夢十夜』所収) 漱石の文章は神経症の文章らしい。神経症の人にはそれが分かると云わんばかりに津原泰水が書いている。 その津原をして、「好きでならない」と云わしめた「永日小品」。 日常の些事を淡々と綴るだけと…

「暗示コミュニケーション」とは

内藤誼人『人は「暗示」で9割動く!』 そもそも会話には多くの「暗示」が含まれている。相手はその暗示をキャッチしている。本音は丸見えなのである。 そういうことを認識したうえでコミュニケーションをうまくやるにはどうすればよいか。 〈「わかってほしい…

森鴎外は翻訳で何を目指したのか

森鴎外「翻訳に就いて」 本名の森林太郎名で書かれた「翻譯に就いて」には翻訳者森鴎外の本音が瞥見される。 翻訳者によって目指すところは異なると思うが、森鴎外ははっきりと自分の翻訳の目指すところをわきまえていたように見える。 それを簡潔に本論の用…

NASA月面写真分析の書

コンノケンイチ『月は神々の前哨基地だった』 知る人ぞ知る書である。 著者コンノケンイチ(今野健一、1936-2014)の執筆活動は多岐にわたったが、本書(1987)がひとつの大事な出発点だった。本書が出た頃は日本におけるUFO研究熱はさかんで、あらゆる分野…

和名の色名と英名の色名を教えてくれる電子書籍

長谷井康子『写真でつづるKindle色名図鑑: (感性をみがく色彩シリーズ)』 「e色彩学校」シリーズのひとつ。液晶画面で色彩の世界を案内する電子書籍。 まず、日本の色名。赤系から始まる。鴇色、韓紅色、蘇芳、鳶色の四色が着物のイラストと共に提示される…

町山智浩の本やラジオに宝がときどき埋もれている

町山智浩『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』 米国在住の映画評論家、町山智浩の発言に時々宝がふくまれている。 そのことを初めて実感したのが、映画「Hot Fuzz」の劇場公開を求める会の運動があった2008年頃だった。その運動についてふれ…

『資本論』第1巻をベースに物語化

『資本論 (まんがで読破)』 ドイツの経済学者、哲学者カール・マルクス(1818-83)の『資本論』はマルクス経済学最大の古典だ。本書はマルクスみずからの手によって世に問われた第1巻(1867)をベースに物語化したまんがだ。大著である原書への橋渡しになる…