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記事一覧

「モナ・リザ」の鑑定に必要なものは

松岡圭祐『万能鑑定士Qの事件簿IX』(角川書店、2011) 「モナ・リザ」の鑑定をめぐるミステリ。主人公の鑑定士、凜田莉子にルーヴル美術館から「モナ・リザ」の真贋を鑑定する学芸員の登用試験を受けるよう誘いがある。日本での「モナ・リザ」展において万…

「詩人ボブ・ディラン」特集号

Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2016年 10/25 号 [ボブ・ディランの真価] 「詩人ボブ・ディラン」特集号(2016年10月18日発売)。ディランのノーベル文学賞受賞が発表されたのが2016年10月13日。1週間足らずでまとめたにしては充実した内容だ。買う価値…

海水淡水化の画期的テクノロジーの謎

松岡圭祐『万能鑑定士Qの事件簿VIII』(角川書店、2011) 舞台は台湾。万能鑑定士の凜田莉子は故郷の波照間島の水問題に長年こころを砕いている。そんなところへ突然「同島の生活用水供給につきまして問題解決のめどが立ちました故、ご報告させていただきま…

霞が関の常識は、世間の非常識——めずらしい気象ミステリ

松岡圭祐『水鏡推理4 アノマリー』(講談社、2016) 研究不正をテーマにしてきた「水鏡推理」シリーズの第4作。本書では研究にからむ民間予報の問題をあつかう。従来、気象庁が行ってきた予報業務が近年、民間で実施可能となっている。民間予報業者、正式に…

地磁気逆転と謎の人面塚

松岡圭祐『水鏡推理3 パレイドリア・フェイス』(講談社文庫、2016) 研究不正をあつかう「水鏡推理」シリーズの第3作(2016)。 おもしろさは前作を上回る。最終部の盛り上がりはスリリングだ。 これまでよりも年代の新しい地磁気逆転を発見したとする科学…

「水鏡推理」シリーズの第2作は「文献引用影響率」をめぐる不正

松岡圭祐『水鏡推理2 インパクトファクター』(講談社文庫、2016) 水鏡瑞希(みかがみ みずき)が活躍する「水鏡推理」シリーズの第2作。瑞希は二十五歳。文部科学省の「研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース」の一般職の事務官。…

21世紀の「逃走論」

花房観音『情人』(幻冬舎、2016) 「縦に揺れ、布団に入ったまま宙に浮いてまた落ちた。」(16頁)1995年1月17日午前5時46分。神戸。「逃げてるよ。でもそれのどこが悪い? 無理にできないことをして倒れたり病んだりするよりは、逃げて、ひとりで生きてい…

危うし! ロビン(コーモラン・シリーズ第3作)

Robert Galbraith, Career of Evil (Sphere, 2016) Cormoran Strike シリーズの第3作(2015)。 いつもながら、読み終わるのが惜しいと感じられる。いつもながら、唸らされる。これも傑作と数えてよい。 本作は犯罪小説としては異色のものだ。探偵ストライク…

食は世につれ革命につれ

片野 優 (著), 須貝 典子 (著)『料理でわかるヨーロッパ各国気質』(実務教育出版 、2016) ヨーロッパ各国の食や酒をセルビア在住のジャーナリストとライターの二人(夫妻)が書いた本。特にハンガリーやチェコの章がおもしろい。帯に「イギリス料理はなぜ…

端正な恋物語(同工異曲にあらず)

南 潔『黄昏古書店の家政婦さん ~下町純情恋模様~』(マイナビ出版、2016) 誤解を受けやすいタイトルと表紙。しかし、読んでみると、そんなことはない。 古書店と若い女性。この取合せから想像される、例の謎解きに富んだ、古書の蘊蓄満載の人気シリーズ…

言語学的に厳密な訳と注がスリリング

旧約聖書翻訳委員会 (著), 松田 伊作 (翻訳)『旧約聖書〈11〉詩篇』(岩波書店、1998) 岩波書店の「旧約聖書」シリーズの第11分冊。岩波の聖書は単なる詳注版でなく、訳にも大胆な新解釈がもりこまれ、スリリングな巻が多い。岩波版旧約聖書の特徴は四つあ…

シスター・スタンの珠玉の断想集

Sister Stan, Stillness: Through My Prayer (Town House, 2005) アイルランドのシスター・スタンの断想をテーマごとに集めた本。テーマは・beyond fear・trust・letting go・mystery・truth・awakening・acceptance・stillnessの8つ。シスター・スタンの読…

ピアノの内部から宇宙を見る

宮下奈都『羊と鋼の森』(文藝春秋、2015) 宮下奈都は調律師の理想を表すことばを探った。そして、詩人・原民喜のごく短い、千字足らずの随筆「沙漠の花」から次のことばを引いた。 明るく静かに澄んで懐しい文体、少しは甘えてゐるやうでありながら、きび…

ゾーヴァのグミベアー

ドイツのミヒャエル・ゾーヴァの絵を3冊の絵本で愉しんだ。 1. ちいさなちいさな王様2. 思いがけない贈り物3. クマの名前は日曜日まず、『ちいさなちいさな王様』。 アクセル・ハッケ作(講談社、1996)。内容にふかみがあり絵が魅力を高めている。「大人の…

うーん、ちょっとちゃう

ジョン・クラッセン『ちがうねん』(クレヨンハウス、2012) 大阪は藤井寺出身の絵本作家・長谷川義史が大阪弁で翻訳した絵本。大きな魚が帽子を盗られた。果たして取り返せるのか?すっとぼけた小魚が犯人と初めから分かっている。ミステリでいうなら「倒叙…

静と動のミステリ絵本

ジョン・クラッセン『どこいったん』(クレヨンハウス、2011) ジョン・クラッセンの2つの絵本『どこ いったん』(クレヨンハウス、2011)と『ちがうねん』(クレヨンハウス、2012)は大阪は藤井寺出身の絵本作家・長谷川義史が大阪弁で翻訳している。 この…

怪異を超えた神話的存在

葉山 透『0能者ミナト (9)』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス、2015) ダイダラボッチという名前は聞いたことがあった。宮崎駿の映画「もののけ姫」で見たことがある。 だから、大体のイメジはあったものの、本作に出てきたダイダラボッチは、もっと神…

遺伝の法則を復習しよう

葉山 透『0能者ミナト (8)』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス、2014) 霊能力などによらず、論理と理性で怪異の問題を解くがゆえに、その筋では評判の悪い湊が主人公のシリーズも第8巻まで来た。今回の怪異事件は人里離れた館で発見されるふたりの赤…

比較神話学と詩的直観

アレクサンドル・アレクセビッチ ワノフスキー『火山と日本の神話』(桃山堂、2016) 亡命ロシア人として日本にくらしたアレクサンドル・ワノフスキー(1874-1967)の著作『火山と太陽』(1955)を収め、多角的に検討した書。主 として古事記の新解釈を行い…

切り札をあと2枚切る衝撃の展開

松岡圭祐『探偵の鑑定2』(講談社、2016) 『探偵の鑑定1』の続き。 ※『1』未読の人はご注意ください。 『1』で「探偵の探偵」玲奈と、「万能鑑定士」莉子という2枚の切り札を切った著者。二大人気シリーズの主人公を合流させた展開に驚かされた。 が、『2…

人気2シリーズのヒロイン豪華共演

松岡圭祐『探偵の鑑定1』(講談社、2016) 探偵の探偵、玲奈の世界に万能鑑定士Q、莉子がからむ。このあり得ない設定は、いわば著者の得意技だ。そこまでは想定の範囲内だったけど、読んでみて、うならされた。まさか、こうなるとは。 どうやら、本作で2シ…

脳ほんらいの活性を取戻すことはできるのか

大橋力『音と文明』(岩波書店、2003) 言語脳の知に覆いつくされた現代。はたして非言語脳の知を回復する手立てがあるのか。そんなスリリングな問いを立て、どこまで分かり、どこまでが可能なのかを、諸学の成果を結集し、環境学者として、音楽家として、緻密…

端正な恋物語(同工異曲にあらず)

南潔『黄昏古書店の家政婦さん ~下町純情恋模様~』 誤解を受けやすいタイトルと表紙。しかし、読んでみると、そんなことはない。 古書店と若い女性。この取合せから想像される、例の謎解きに富んだ、古書の蘊蓄満載の人気シリーズとは趣を異にする。 これ…

このベストセラーがなぜ読まれていないのか

ジャック・アタリ『21世紀の歴史』(作品社、2008) ジャック・アタリのこの本(原著2006年刊)は21世紀の今後を予測するうえで貴重な洞察や提言に満ちている。それだけでなく、過去の歴史についても創見(ひとによっては偏見ととるだろう)があふれている。 …

無知は弱さになる | 医療保険制度の将来

日本の医療費は38兆円。 これが医療が「商品」になると100兆円になるという。巨大な市場だ。米国は参入しようとして虎視眈々と機会を狙っている。 堤未香さんが自著『沈みゆく大国アメリカ』から次の箇所を朗読した(BS日テレ「久米書店」2016年6月5日再放送…

起源神話の脱構築━━もうひとつのプラハを幻視する

ミハル・アイヴァス『もうひとつの街』 チェコの作家ミハル・アイヴァスが1993年に書き2005年に大幅に改訂した小説。mythopoeia という言葉があるが、まさにそのような、神話的な詩とも詩的神話ともいえる作品。1949年10月30日プラハ生まれだが父親はクリミ…

絵解きは謎解きに通じる━━漢字の絵解きの面白さ

牧野恭仁雄『みんなで読み解く漢字のなりたち2 人の姿からうまれた漢字 みんなで読み解く漢字のなりたちシリーズ』 ふだん使う漢字は300の絵の組合せから成る。そういう観点から漢字を解き明かす「絵解き」はまだ新しい分野だという。 漢字の成立ちは今の楷…

読んでいる間、妙にドキドキする小説

川上弘美『センセイの鞄』 女性作家の作品で女性が「用を足す」場面が印象に残る小説はめずらしい。評者が知る限りでもあと一つしかない(ジェニファ・イーガン)。この「用足し」が小説の中の重要な場面に現れる。たいがい、主人公の女性とその先生とが、微…

ブログ読者の方へ

こんにちは。 以前にも書いたかもしれませんが、主として note に書くことが多いのが現況です。もし興味がおありの場合は、そちらを覗いてください。 このブログは月に1回程度更新する予定です。

1904年6月16日ダブリンの一日

ジョイス、バラエティアートワークス『ユリシーズ(まんがで読破)』 世に言う「ブルームズデー」をえがくジョイスの小説をまんが化したもの。382ページあるけれども、おもしろいのでまったく退屈しない。 アイルランド・ダブリンの1904年6月16日の一日をえが…