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古代ローマと日本の交流深まる(信じられないことに)


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ヤマザキマリ『テルマエ•ロマエIII』

 

 いつもは古代ローマと日本とを予期しないタイミングで往還するだけで、なかなか日本人とコミュニケーションがとれなかった浴場設計士ルシウス。

 けれど、この第3巻では温泉街で日本円を手に入れラーメンを注文することまでする。さらに、日本の若き浴場設計者と設計に関するアイディアの交換もする。そこに広がる感動は第2巻以上。ネタ切れを心配していたけれど、もうまったく心配ない。

 特にラーメンを食べる場面のおかしさといったらない。ラーメン丼の縁の四角い渦巻き模様に「ギリシャ伝来のメアンドロス柄」を見て取り、「この民族も我々と同様にギリシャの影響を受けていたのか?」と推測するあたり、滑稽さを超えてシュールささえ漂う。一口食べたあとにルシウスは感極まり、「これは一体どういう事なのか・・・ 料理の分野でも我々はこの民族と同様にギリシャの影響を受けているはずだというのに・・・ なぜ平たい種族だけこんなに美味い物を開発できたのだっ!?」と涙ぐむ。

 もう一つ本巻で驚いたのは、ローマの解放奴隷に関することだ。作者の解説にペトロニウスの風刺小説『サテュリコン』の「トリマルキオの饗宴」が出てくる。

派手な衣装に身を包んだ解放奴隷トリマルキオの、とんでもない工夫と演出を凝らした宴会の様子や、見栄からさも教養があるように振る舞い、それがバレて笑い物になるというエピソードが描写されています。

これは、まんま、『華麗なるギャツビー』の世界だ。まさか、本書でギャツビーに遭遇するとは思わなかったが、よく考えればフィツジェラルドは当初 Trimalchio という題にする予定だった(作品中には一箇所 Trimalchio の名が出てくる)。

 『テルマエ・ロマエ』第3巻では、このトリマルキオのような成金趣味をいかにルシウスが納得いく浴場へと設計変更するかの顛末が興味深く描かれる。それのみだと派手さやどぎつさが強調される金の風呂を、彼はどうやって神々しいものに変えるのか。