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災害医療でのインプロヴィゼーション


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菊地昭夫『Dr.DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス〜 3』

 

 あれから2年。血を見るだけでこわがっていた内科医、響(ひびき)は、現場経験にくわえ、外科での研修などもへて、たくましくなった。

 災害の現場で必要な資材や器材がなくとも、即興医療(インプロヴィゼーション)をあみだす能力にかけて、響は天才脳外科医にまさるところをまたも見せる。これは表面的な医療技術の問題ではなく、もっと深い人間力に根ざす資質だと感じられる。つまり、極限の状況下で、自分の持ち駒がすべて絶たれたようなときでも、決してあきらめることなく、なおも最善の解決策を模索する粘り強い知性や感性の問題だ。

 一方では、親子の事故現場で、母親は自分より子を先に救ってくれという。だが、災害医療の立場では救える可能性のあるのは母親。こんなとき、どうすればよいのか。命を選ぶとはどういうことか、が突きつけられる場面。

 このシリーズも第3巻になって安定し、上質のマンガになってきた。TV 放送では桜庭隊長がかっこよすぎる感じがするが、この本家のマンガでは憎まれ役がぴったりだ。

 災害と医療と命。あの阪神淡路大震災から21年。今やだれにとっても身近な問題となったこうした問題をじっくり考える手がかりにもなるし、純粋に物語としても楽しめる。