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記事一覧

電子書籍

日本の文学意識の根源を異人のもたらした文学にみる

折口信夫『日本文学の発生』 折口信夫の文学論のうち、日本文学の発生にかかわる根本問題を、次の3種の文献を引きつつ考察したもの。・播磨風土記・神武紀・神代紀もちろん、すべて漢文で引用されている。まず、前提として、日本の国土に対して、他界が想定…

第六回創元SF短編賞(2015)受賞作

宮澤伊織『神々の歩法』 うーん。これが受賞作かというのが第一印象。 ニーナの運命が気になるというのが第二印象。 英語の発音がおかし過ぎて唖然というのが第三印象。 そのほか、作品ではないが審査員の短編観に大丈夫かと思った。これが判った以上、今後…

飛浩隆「La Poésie sauvage」の前日譚

飛浩隆『自生の夢』 飛浩隆「La Poésie sauvage」(「現代詩手帖」2015年5月号)が本作「自生の夢」(2009)の延長として生まれた。「La Poésie sauvage」に感じ取れたのと同質の詩情(ポエジー)を期待したが本作にそれはない。むしろ、得体の知れぬ巨悪の…

短編集『オーリエラントの魔道師たち』の一篇

乾石智子『紐結びの魔道師: 1 』 山形県の作家・乾石智子のファンタジー作品。短編集『オーリエラントの魔道師たち』に収められた四篇のうちの一篇「紐結びの魔道師」を、「オーリエラント」の世界の入門書として独立させたもの。 紐結びの魔道師と貴石占術…

ポテンシャルを掘り起こす視点の力

菅俊一『まなざし』 執筆・編集・出版関係者向けのウエブサイトDOTPLACE(ドットプレイス)のレーベルからの第一弾として2014年7月に刊行された。同ウェブサイトでの連載の第1回から第12回までをまとめた電子書籍。電子書籍向けの特別の文章が附属する。連載…

和名の色名と英名の色名を教えてくれる電子書籍

長谷井康子『写真でつづるKindle色名図鑑: (感性をみがく色彩シリーズ)』 「e色彩学校」シリーズのひとつ。液晶画面で色彩の世界を案内する電子書籍。 まず、日本の色名。赤系から始まる。鴇色、韓紅色、蘇芳、鳶色の四色が着物のイラストと共に提示される…

日本の和菓子を楽しむ

美咲『日本のお菓子』 和菓子について、その種類、歴史、銘菓などを整理しまとめた電子書籍。著者は女子大生で、和菓子屋の販売員のバイトをしたことから、和菓子好きになったとのこと。 和菓子に少しでも関心のある人なら楽しめるだろう。評者はかねてから…

キジ・ジョンスンの日本を舞台にした短篇

Kij Johnson, The Cat Who Walked a Thousand Miles (A Tor.Com Original) Small Cat という猫が主人公。都で廃屋となった大きな屋敷の庭に暮らしている。ある日、地震が起き、つづいて都じゅうが火事になる。 この出来事は Small Cat の環境に激変をもたら…

'Joyce's Ulysses: A Guide' (iPad app)

2014年6月1日に、iPad 用のアプリとして 'Joyce's Ulysses: A Guide' が出た。註釈や音声をふくむすばらしいソフトウェアである。ジョイスの名作『ユリシーズ』をiPadで縦横に読むことができる。 原作の本文全文に加え、800点の註釈がついている。この本文は…

電子書籍を出した三人の著者の鼎談

藤井太洋、梅原涼、十市社『セルフパブリッシングで「本」を出す』 セルフパブリッシングされた電子書籍が、たまたま編集者の目にとまり、紙の書籍として出版された三人の著者が、デジタル・セルフパブリッシングの現状、および商業出版されるまでの経緯を語…

浜崎が発するシャッター音は、被写体に呼びかける

豊島ミホ『銀縁眼鏡と鳥の涙』 豊島ミホの短編小説。カメラをめぐる高校生群像を、繊細な文体で描きだす。 文体そのものが青春期特有のふるえるこころを切取ったようである。すっかりファンになった。が、もはや豊島ミホは小説家ではない。いまは漫画家であ…

Kindle本の価格のきめかたガイド

守本悠『わずか1000部で87万円稼ぐ電子書籍の作り方』 Kindle本の販売のため、価格の決定方法とプロモーションのやり方を考察した本。 電子書籍出版の指南書はいろいろ出ているが、類書にない角度だ。 Kindleストアで本を販売するには何を考えればよいのか。…

ジャズ・スクールでのトホホな日々はじまる

大江千里『9th Note/Senri Oe II 痛み分けはジャズの味: 2 (カドカワ・ミニッツブック)』 (承前)『9th Note/Senri Oe I 憂鬱のはじまり。: 1』ではシンガーソングライターの著者がニューヨークのジャズピアノ科に入学するまでをえがく。著者がアメリカ…

ジャズの謎を探る旅が憂鬱のはじまりとは

大江千里『9th Note/Senri Oe I 憂鬱のはじまり。: 1 (カドカワ・ミニッツブック)』 シンガーソングライターの著者がニューヨークのジャズピアノ科に入学を決意し、旅立つ顛末がいろいろ書かれている。実におもしろい。 読み出してまず、序文に「9番目の先…

文庫本に使えるブックスタンド

文庫本が立てられるブックスタンドは、ありそうで中々ない。 立派な書見台はたいてい大きめの分厚い本に対応していて、そのことが文庫本にはかえって向いていなかったりする。 そこで、スリムなタイプで文庫本にぴったりのブックスタンドを探したところ、ま…

アイルランド語訳聖書について An Biobla Naofa

古い英語や英語史を勉強するには聖書がよいと、かつて言われた。今も言われているかもしれない。各ヴァーションの比較が容易だし、各国語訳も豊富にあり、内容もよく知られているから歴史言語学的なアプローチには向いている。 現代アイルランド語の場合も同…

こんな男になりたい――異色のサラリーマン漫画

本宮ひろ志『サラリーマン金太郎 第1巻』〔電子書籍版、サード・ライン刊、2012〕 〔「週刊ヤングジャンプ」で1994年に連載された〕 1. 漫画について 現実にこんなサラリーマンがいたらどうだろう。きっと大騒ぎになるだろう。 主人公矢島金太郎は漁師をして…

くくり伝承と童謡がからむ物語

姫野春『くくりひめ』(双葉社、2012) 【お断り】本書はE★エブリスタ電子書籍大賞2012大賞受賞作品で、賞は電子書籍として受けた。以下は、その電子書籍を対象とした書評。ただし、書影は紙冊体のそれ。 エブリスタ電子書籍大賞「ホラー・サスペンス部門」…

西ドイツがあった頃、東京のふたりは

重松清『コーヒーもう一杯』(文藝春秋、2011) ベルリンの壁が崩壊する前の、というから1980年代の東京が舞台だろう。19歳の「僕」と三歳年上の「彼女」がコーヒーを飲みながらかわす会話が本短篇のほとんどを占める。ほろ苦い青春のひとこまが、あの頃の時…

サンタにプレゼントを贈ろうとするエルフ

Andrew Thomas, Squidge: Little Elf, Big Problem 〔類似した題の Squidge: Little Elf, Big Trouble とは別の書〕 英国の小学校の先生アンドルー・トマスが書いた絵本シリーズの第2作(2011)。第1作 Squidge: Little Elf, Big Trouble (2010) はアマゾン…

警察の人事が意外な謎をたぐりよせる

横山秀夫『陰の季節 横山秀夫傑作短篇シリーズ(1): 1』(文藝春秋、2001) 横山秀夫の小説家デビューとなった短篇。初出は「文藝春秋」1998年7月号で、同年の第5回松本清張賞を受賞している。単行本は同年10月に他の三篇とともに出版された(のちに文庫化…

Kindle用のベスト語源辞書MWCD

Merriam-Webster's Collegiate Dictionary, 11th Edition (Merriam-Webster, 2009) 語源が充実していると好評な英英辞書。

電子書籍を必要とする3つの場合

電子書籍でなければならない場合が少なくとも3つある。 検索が必須の場合 付箋箇所を一覧したい場合 本を見失いたくない場合 検索が必須の場合 これは本文の内容を徹底的に検索することが必須であるケース。たとえば、ある語句がどこに何回出てくるかを精密…

電子書籍で読める村上春樹3選

3選! あまりにも少ない。 だけど、しょうがないのだ。村上春樹の電子書籍ってあまりない。日本語の小説はほとんど電子化されていない。エッセーが少し電子化されている。雑誌に収録された短篇小説などは、その雑誌が電子化されればそれに伴って電子化される…

「料理はロジックです」

勝間和代『健康になるロジカルクッキング』(デジタル・ブック・ストレージ、2013) 『万能鑑定士Qの推理劇 I』を読んで以来、自分の中でロジカル・シンキングがブームになっている。そこへ、このロジカル・クッキング。さらに自分にはヒットとなりそうだ。…

インターネット的なつながりの中で考えることは楽しい

糸井重里『インターネット的』(PHP新書、2001) 糸井重里が初めてコンピュータやインターネットに接したときの驚きに満ちた、新鮮な、深い考察がぎっしり詰まった本だ。いま読んでも古くないどころか、日常をこれらの仕組とともに生きる現代人が一度は目を…

Kindleでは読めないkoboの名作5選

この逆をやっても話題にもならないだろう。「koboでは読めないKindleの名作」とか。 koboでしか読めない電子書籍は以前からあった。だけど、それだけの理由で話題になることも、あまりなかった気がする。 Kindleで出てない本というと、概して地味な本が多い…

ジョージ・ソーンダーズのX-Ray附きの短篇 Fox 8

George Saunders, Fox 8: A Story (Kindle Single) (Random House, 2013) 結論からいえば、あの名作『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち』のキツネ版だ。本作はおそらく翻訳されないだろう。大変に変てこな言語で書かれているから。 主人公のキツネ Fox …

Kindle用のベスト学習英英辞書MWALD

Merriam-Webster's Advanced Learner's Dictionary (Merriam-Webster, 2008/09) Kindle で使える英英辞書は少なくない。Kindle リーダを購入すると同梱されている Oxford Dictionary of English や The New Oxford American Dictionary 以外にも、The Essent…

キンドル(Kindle)の目次にハイライトと注釈を加える

キンドル(Kindle)電子書籍リーダーの本文にハイライトや注釈を加える人は多いだろう。だけど目次には? あまりいないかもしれない。結論からいうと、目次にハイライトと注釈を加えることが可能だ。