1990年代の日本の外食文化の雰囲気をよく伝えるマンガ
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淡々と綴られた短篇集のおもむきながら、あの頃の雰囲気がしっかり漂ってくる好ましいマンガだ。
主として東京のいろんな場所で食べた食事のあれこれが、気負いもなく、本当に淡々と綴られる。その場の雰囲気も過不足なく伝えられる。ただそれだけだ。
ただそれだけなのに、印象に残る。
なぜなのだろう。もしかして、こういう文化は少しづつ失われているからではないだろうか。
こんなふうに食事を丁寧に味わい、味わったままを綴る。ありそうでなかなかない。
食べ歩くというのではなく、仕事の都合などでたまたまいる出先で、腹が減り、適当なところを探して出会った食べ物を淡々と記録する。このたくまざるところが、かえって、日本の食文化を変な味付けなく伝えるのに成功している要因になっている。
初出を見ると、1994年から1996年にかけて雑誌に発表されたもので、この新装版には特別篇として2008年の一篇が添えられている。
めったに感情が激したりすることはない主人公だが、店主に文句をつける場面が一回だけ出てくる。その店主は段取りに慣れない従業員を客の前で始終叱りつけているのだ。主人公は大変腹が減っており、静かに、いわば救われた境地で自由に心ゆくまで食事をとりたいのに、まったく食欲をなくしてしまうのだ。多くの人が共感する場面ではないかと思う。