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読むうちにどんどん引き込まれる薬草の本


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西村佑子不思議な薬草箱 魔女・グリム・伝説・聖書山と渓谷社、2014)

 

本書は魔女にまつわる薬草、聖書にからむ薬草をとりあげ、どんな草なのかに迫った本。

軽い気持ちで読み始めたのだが、読むうちにどんどん引き込まれて行った。

なんの気負いもてらいもなく、叙述は淡々と進む。だが、そのうちに、薬草と人々の生活の関わりが、じわじわと浮かび上がってくるのだ。古い時代のことを語っているのに、現代の私たちにも関係がある。そのことが、ゆっくりと染み通ってくる。

とは言っても、中には珍しい薬草もある。そういうものは想像するだけだが、それもまた愉しい。

しかし、多くの薬草や植物は私たちが日常に食しているものだ。そのつもりで見れば、驚くほど多くの植物と私たちは関わりを現に持っている。そのことに改めて気づかされる。

著者の姿勢をよく示すと思われるのが、次の言葉だ。

〈規模の大小は問わず、大げさにいえば、草が生えているところなら道端でも山道でも私には立派な薬草園になる。専門家から見たら幼稚だと思われるようなことも私には発見なのだ。素人なりの見方、楽しみ方がある。〉

著者によれば、聖書の中に出てくる薬草を集めた聖書薬草園がドイツには百以上あるという。著者はそういうものだけでなく、修道院の薬草園や大学植物園を訪ねている。

聖書薬草園といえば、日本にもある万葉植物園のことを思う。万葉集に出てくる植物を集めた植物園だ。そこでしか見られない万葉の植物にふれると、古代の世界が身近になる。現在にも続く植物の存在を目の当たりにすると、不思議な感覚にとらわれる。同じようなことが著者の場合には、魔女や聖書にまつわる薬草でも起こったのだろう。

個別の薬草や植物について、本書は大変くわしい。例えば、マンダラゲ(マンドレーク)は、シェークスピアハリー・ポッターにも出てくる有名な植物だが、本書では第2章の「アルラウネ」で詳述されている。今まで見た中ではこの植物について最も詳しい記述の一つではないかと思う。