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歴史ミステリー小説と銘打たれているが果たしてそうなのか。『ダ・ヴィンチ・コード』によく似て〈正史〉的な本では決して語られることのないような内容を大量に含んでいる。それをフィクションの形をとり書いた印象


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伊勢谷 武『アマテラスの暗号(2019)[2020年の改訂版でなく、旧版]

 

歴史ミステリー小説、あるいは歴史ミステリー・エンターテインメントと銘打たれている。果たしてそうなのか。本書を読んだ人は誰でもそう疑問に思うだろう。日本という国に隠された謎がフィクションの形をとって白日の下に曝された本ではないのかと。

読後感としては『ダ・ヴィンチ・コード』によく似ている。本の中の随処にある謎が知識のある人なら解けるもので、しかるべき文献(外典など)を見ればその内容の多くが裏づけがとれるような本。しかし、〈正史〉的な本では決して語られることのないような内容という意味で。

大部な本だ。廣済堂出版から発行予定の紙冊体の本が650ページ[2020年版は536頁]。大部だけれども、展開がスリリングでおもしろいので、一気に読める。

タブレットなどで電子書籍版を読むと、カラーの写真や図版が見やすい。この方面(日本古代史、皇室とユダヤ、神社、神話など)に関心のある人には資料集としても役立つ。



本書の最大のテーマは神道とはなにかである。〈この小説における神名、神社、祭祀、宝物、文献、伝承、遺物、遺跡に関する記述は、すべて事実にもとづいています〉という断り書きがあるが、本当なのかと、読者の多くは思うだろう。それほど驚天動地の内容が含まれる。

本書が基づく最重要文献で、本書のストーリーでも重要な要素を占める本が『元初の最高神大和朝廷の元始』(桜楓社)だが、その本を読んだことのある人なら、本書に出てくるさまざまの驚くべき内容には、あまり驚かないだろう。だが、その本は稀覯書で、読んだことのある人は少ない。しかも、内容は神学的に難解である。

本書はそれに比べると非常に分りやすい。エンターテインメント小説として提供されているのだから、当然といえば当然だが。登場人物も個性的で、謎めいており、スパイや秘密組織も暗躍するので、スリル満点である。



ストーリーの発端はこうである。

「元ゴールドマン・サックス(NY)のデリバティブ・トレーダー、ケンシ(賢司)は、日本人父との40数年ぶりの再会の日、父がホテルで殺害されたとの連絡を受ける。父は日本で最も長い歴史を誇る神社のひとつ、丹後・籠神社の宗家出身、第82代目宮司であった。籠神社は伊勢神宮の内宮と外宮の両主祭神(アマテラスと豊受)がもともと鎮座していた日本唯一の神社で、境内からは1975年、日本最長の家系図『海部氏系図』が発見され、驚きとともに国宝に指定されていた。父の死の謎を探るため、賢司は元ゴールドマンの天才チームの友人たちと日本へ乗り込むが……」

先に挙げた『元初の最高神大和朝廷の元始』の著者は、その籠神社の第81代目宮司の海部穀定 (1900-1985) であった。81代というのはそれだけでも驚くべき数字である。同神社の創建は有史以前とされる。

主人公の設定にも見られるように、本書は遠い古代の昔話に終わらない。現代にもつながる問題で、おそらくは日本や世界の将来を左右するほどの重大な要素を秘めている