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日本の文学意識の根源を異人のもたらした文学にみる


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折口信夫『日本文学の発生』

 

折口信夫の文学論のうち、日本文学の発生にかかわる根本問題を、次の3種の文献を引きつつ考察したもの。

・播磨風土記
・神武紀
・神代紀

もちろん、すべて漢文で引用されている。

まず、前提として、日本の国土に対して、他界が想定された。他界の生活様式は、日本の事情と、すべて正反対の形であると考えた。

日本文学の起源がつくられたとき、その起源をつくった時代の人々は、それがことごとく空想の彼岸の所産であると考えた。その彼岸と此岸との両方の国土の消息に通じた者が考えられ、その者がもたらす詞章が、のちに文学となるべき初めのことばであった。

周期的にこの国を訪問する者を異人、または、まれびと、と呼んだ。

その異人がもたらす詞章は威力をもつと信じられた。その威力は、その詞章に含まれている発言者の霊力の信仰が変化したものであった。

この詞章の威力が、そうした威力を持つものと信じられたがゆえに、長く保持され、次第に分化して、結局、文学意識を生じるに至ったと、折口信夫はいう。



この折口がいう詞章の威力は、万葉集における、柿本人麿や山上憶良が詠った言霊(ことたま)と似通っているように思える。ところが、驚くべきことに、日本に特有の言葉の霊力と思われる言霊の、そもそもの起源と考えられる原初の詞章の威力が、異人に由来するというのだ。

もし、そうだとすると、われわれは言霊に関する思想を、根本から見直す必要に駆られる。

いろいろな意味で、日本文学を根底から考えさせる論考だ。