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近未来なのに懐かしい


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藤井太洋『公正的戦闘規範』早川書房、2017)

 

著者初の短篇集。どの短篇にも藤井太洋の世界観がしっかり刻まれ、物語の世界を読者も共有することができる。

収められた短篇は次の通り(括弧内は初出)。

1. コラボレーション(SFマガジン、2013)
2. 常夏の夜(『楽園追放 rewired』、2014)
3. 公正的戦闘規範(『伊藤計劃トリビュート』、2015)
4. 第二内戦(『AIと人類は共存できるか?』、2016)
5. 軌道の輪(書き下ろし)

初めに結論をいうと、傑作だ。科学技術が発展した近未来のその先を描きだすSFながら、どこか懐かしさをおぼえる。

技術的にバリバリの尖端的な内容でありながら、妙にヒューマンなタッチが失われることなく、登場人物たちと同じ世界を仮想体験する心地が味わえる。爽快な体験といっていい。

1はデビュー長篇『Gene Mapper』の前日譚的スピンオフ。〈インターネット後〉の世界をえがく。ふだん UNIX を使っているひとには居心地がよい作品。ネットワークと決済という今日的な話題の先がほの見える。

2は量子アルゴリズムが人類社会を革新する世界をセブ島を舞台にえがく。台風の被害にあえぐセブ島の混乱を収拾するため、現地へ向かう経路の最適化という問題が持ち上がるが、それを意外な人物が量子コンピューティングを応用して解決する痛快な物語。〈人類の知の先端(エッジ)は、在る未来への挑戦に変わった〉という名言が出るのはこの作品だ。量子ネイティブの世代の夜明け。

3は主人公「公正」が近未来中国の対テロ戦争に巻き込まれる物語。

4は保守と革新に分断されたアメリカを舞台に、保守の新独立国に潜入する物語。

5は木星と地球をめぐる、イスラーム的世界観の未来。

 

 

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