Robert Galbraith, Lethal White (2018)
600ページを超える大作。プロットは複雑。英国の国務大臣の謎の死をめぐり、多数の人脈がからみ、ストライクとロビンによる捜査が進展する。通常、ミステリの最後の方では謎解きがあり、ペースが落ちるものだが、本作は最後の5%あたりからものすごいサスペンスが新たに展開し、息もつかせない。
作品を読んでの満足度ということになると、読者により変わるだろう。私の場合は、本シリーズの文体に魅せられており、英国の本格小説の濃厚な味わいをこれまでの3作で楽しんできた。が、本作に関しては、やや文体の密度が薄いように感じられる。
(作者は実は女性であるが)男くさい、英国英語らしいひねりの効いた文章に唸らされるという場面が、これまでの作品に比べてやや少ない。唸らされる箇所が決してない訳ではないのだが、600ページもあると、これまでと同じ数だけそういう箇所があったとしても、全体としては薄められた印象になる。
ラテン語の詩が重要な役割を果たす。これは、カトゥルスの詩に親しんでいるような読者なら自然に読めるだろうが、原語でカトゥルスを読んだことのない人にはやや敷居が高いかもしれない。本作では捜査の相棒のロビンがまったくラテン語を解しないために、事件の肝腎のヒントを見落としてしまうことになる。
副プロットであるロビンの夫婦関係の話は、夫のマシューに人間的魅力が乏しいため、やや辟易する。この部分にこれほど紙幅を割く必要があるのだろうか。これくらい書くのであれば、ロビンとストライクの関係も同じくらい書いてくれないと、バランスが悪い。逆に、ストライクとシャーロットのエピソードはおもしろい。ストライクの人間性を浮かび上がらせるからだ。ともかく、本シリーズにおいては主人公のストライクが何と言っても強烈な個性の持ち主であり、魅力が大きいので、人間関係についてはストライクをからめた形で描く部分がいちばんおもしろい。
タイトルは馬に関係する。馬の話題がかなり出てくるので、興味のある人にはおもしろいだろう。
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