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読者と共に定年後を考える楽しい本


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 西和彦定年後の暮らしの処方箋』(幻冬舎、2017)

 

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著者「西和彦」のことを、あのアスキー西和彦氏と勘違いして手に取った。

読んでみて別人と判明。NPO法人住環境ネット理事の西和彦氏であり、建築物の商品企画・市場開発に従事してきた人物だった。

著者は京都大学大学院(建築)を修了し、大成建設に入社した。経歴はエリートコースそのものだけれど、本書はそういう建築の専門的見地から語られるのは第7章「自分を見直す」にわずかに見られる程度で、大部分は素朴な生活者としての観察や考察から発している。

ゆえに、誰が読んでも素直に入って行くことができるだろう。誰にとっても待ちかまえている未来であるから。

「処方箋」という題名から、実用的な書を期待すると、これもやや違う。この問題にはこう、あの問題にはこう、対処しなさいと指南する書ではなく、ともに考え、手探りでよい道を探って行こうとする姿勢がある。

それでも、本書に書かれた数々のテーマは、一つのテーマあたり見開き2ページでハンディに語られていることもあり、実際に定年後の生活に直面したときに考える手がかりにはなる。

具体例を少し挙げてみよう。

第1章「定年後を考える」の〈人生九十年時代の定年リフォーム〉の項で、定年時の家の改修のことに触れている。退職金でやっとローンを完済できるかどうかというときに、そんな話ムリムリとなりそうなものであるが、著者は「できれば定年前後に住まいの耐用年数を物理的にも機能的にも伸ばすことをお勧めします」と述べる。

なぜか。「年を取ってから家のことにお金をかけることは難しい」はずだから。

そうはいっても現実的にはいろいろ問題がある。それを含めて具体的な示唆をいろいろ出来るのは、やはり著者のバックグラウンドにして初めて可能だったのだなと、思い至る。

第2章「会社をはなれる」の〈職業欄をどう書きますか〉はおもしろい角度のテーマだ。同じ章の〈名刺をどうしますか〉と共に、あまり普通の本には出ていないようなことと言える。

昔の肩書きに引きずられるのも嫌な著者は「酒文化活動家」と自称する人に感動する。これからの方向と覚悟が見えそうだからだ。

というふうに、いろいろなテーマを掲げて、読者と共に考えて行く本だ。

 

 

定年後の暮らしの処方箋 (幻冬舎単行本)

定年後の暮らしの処方箋 (幻冬舎単行本)