Tigh Mhíchíl

詩 音楽 アイルランド

記事一覧

'Cois Abhainn na Séad' の比較

Máire Ní Cheocháin のアルバムで挙げた歌 'Cois Abhainn na Séad' は Elizabeth Cronin の録音(1947)もあり、CD 附きの本 The Songs of Elizabeth Cronin (Four Courts Press, 2000) に歌詞と楽譜とが掲載されている(89-90頁)。同 CD と本 CD または上…

聖女マリナの伝説を翻案した芥川龍之介の小説

芥川龍之介「奉教人の死」(新潮文庫『奉教人の死』所収) 熱心な芥川の読者であっても、さぞかし読みにくい小説ではないか。 けれども、キリシタン物に親しんでいる人や、ヤコブス・デ・ウォラギネ(イタリア・ジェノバの大司教)の『黄金伝説』を知る人には…

聴取録 Maire Ni Cheochain, 'Cu-cu-in'

ムースクリー(マスケリー)の歌唱伝統を知るのに恰好のシャン・ノース CD Cú-cú-ín をレビューする。 目次 データ 内容 総評 聞きどころ 入手先、試聴 映像 データ Máire Ní Cheocháin: Cú-cú-ín (Acamhadh Fodhla 2, 2006) rating: *** 1/2 sound quality:…

空飛ぶ生き霊(すだま)

大和和紀『源氏物語 あさきゆめみし 完全版(2)』 雲居を想う源氏の姿が印象的な第2巻。 いろいろあって光源氏の北の方(妻)、葵の上が世を去る。これからやっと夫婦の情も通うかと思えた矢先だった。それだけに、源氏は思い断ち切れず、雲をながめ、葵の…

日本文学の宝がマンガの宝となった

大和和紀『源氏物語 あさきゆめみし 完全版(1)』 死に行く桐壺の更衣は息子(二の宮〔第二皇子〕=のちの光る君、光源氏)にこう言う。「弱かったわたくしがこうしたあなたの母となれたのは……愛が勇気を与えてくれたから……その愛をあなたにのこしましょう…

弾丸のように月明の中に疾駆する女性をえがく

岡本かの子「快走」 岡本かの子の1938年の小説。2014年の大学入試センター試験の国語の問題に出題された。厳しい冬を過ごす受験生に疾走する勇気を与えるような、すがすがしい小説。 女学校を出て、家の手伝いをしている道子は兄の陸郎の正月着物を縫ってい…

VWML Online

〔蔵出し記事 20060508〕 〔2006年〕5月6日、ヴォーン・ウィリアムズ・メモリアル・ライブラリー(Cecil Sharp House, 2 Regent's Park Road, London, NW1 7AY U. K.)が所蔵資料の オンライン検索 を開始した。これで目的の資料を探し当てたら、同ライブラ…

「遠い曲」に出会えるよろこび

権藤芳一『平成関西能楽情報』 関西演劇評論の重鎮による関西能楽界の現状と展望をまとめた書。 平成にはいってからの評論をまとめてあるので題に「平成」とつく。能楽専門誌に掲載されたものが中心なので、ひとつひとつは短く、読みやすい。 創見に満ちてい…

京大の楠カフェ、ゴールウェー大のCollege Bar

京大正門のカフェレストラン「カンフォーラ」で運良く窓際の席にすわったことがある。お値打ち感最高の特別ランチ(スープ、ミ二サラダ、メインディッシュ、パスタ、パン)を試した。紅茶は大したことない。が、店内完全禁煙ゆえ、ゆっくりできる。 名前が変…

ジャズ・スクールでのトホホな日々はじまる

大江千里『9th Note/Senri Oe II 痛み分けはジャズの味: 2 (カドカワ・ミニッツブック)』 (承前)『9th Note/Senri Oe I 憂鬱のはじまり。: 1』ではシンガーソングライターの著者がニューヨークのジャズピアノ科に入学するまでをえがく。著者がアメリカ…

100% と 99.9% との間 To forgive, divine

過つは人の常だが、時に百パーセントが必要になるケースもある。 目次 99.9% 良品で OK か 99.9995% 安全で OK か 95% 聞取れれば OK か 99.9% 良品で OK か 2006年1月21日に行われた大学入試センター試験の英語聞取り試験の再生機は、0.1% が故障した。これ…

ジャズの謎を探る旅が憂鬱のはじまりとは

大江千里『9th Note/Senri Oe I 憂鬱のはじまり。: 1 (カドカワ・ミニッツブック)』 シンガーソングライターの著者がニューヨークのジャズピアノ科に入学を決意し、旅立つ顛末がいろいろ書かれている。実におもしろい。 読み出してまず、序文に「9番目の先…

Sweet 15 by Hitchner

音楽評論家アール・ヒッチナーが The Irish Echo Online 2006年1月4-10日号で、新千年紀(2001年からの千年)に発売された CD から15枚を選出した。よく見ると、1970年代、90年代のものや2000年のものも含まれているし、今では入手困難なものもあるけれど、…

クラッシュ症候群の理解の必要性を痛感させられる

菊地昭夫『Dr.DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス〜 5』 東京DMAT(災害派遣医療チーム)の八雲医師の活躍を中心にえがくシリーズの第5巻。クラッシュ症候群への理解の必要性を痛感させられるエピソードが取上げられている。 東京都内に大規模地震が発生し、東京D…

2005年のシャン・ノース Amhranaiocht ar an sean-nos i 2005

〔蔵出し記事 20051231〕 2005年、生で見たシャン・ノースの歌い手は百二十名を超す。これほど多くのシャン・ノース歌唱を生で聴く機会に恵まれたのは2005年が初めてである。シャン・ノースつながりで言うと、生で見たシャン・ノース・ダンスの踊り手は二十…

災害医療に悪意をいだく人間の登場

菊地昭夫『Dr.DMAT~瓦礫の下のヒポクラテス~ 4』 災害医療(災害現場で施す医療)をめぐるドラマを描く漫画シリーズの第4巻。 TVシリーズも放送されたが、登場人物の内面を深く掘下げた描写は、こちらの漫画のほうに軍配が上がる。特に、主人公の内科医・…

災害医療でのインプロヴィゼーション

菊地昭夫『Dr.DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス〜 3』 あれから2年。血を見るだけでこわがっていた内科医、響(ひびき)は、現場経験にくわえ、外科での研修などもへて、たくましくなった。 災害の現場で必要な資材や器材がなくとも、即興医療(インプロヴィゼ…

災害派遣医療でのさらなる試練と天才脳外科医出現

菊地昭夫『Dr.DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス〜 2』 東京DMAT隊員・八雲響の葛藤と成長をえがく第2巻は、人間ドラマとして読みやすい。災害医療は自分向きでないと思い、辞めたいと願う医師の思いと、周囲の状況とが運命的な交わり方をするさまを劇的にえが…

アイルランド競技会へ海外から参加する人 From beyond the Shores of the Emerald Isle

映画 'The Boys and Girl from County Clare' (2003) は抱腹絶倒のコメディながらアイルランドの伝統音楽競技会にからむ人間模様を映画の形で見事に拳拳服膺してみせた作品といえる。 ケーリー・バンドの全アイルランド大会に参加する三カ国のバンドのリーダ…

「瓦礫の下の医療」に直接従事する医療組織の物語

菊地昭夫『Dr.DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス〜 1』 重いテーマにもかかわらず、読みやすい。救急医療(ERなど)はよく知られているが、それとは違う。最新の医療施設の中で1人の患者に対し最大の医療を施せるのが「救急医療」。それに対し、災害の現場という…

ラーサリーナ、トラック 7 の謎 Source of 'Aoibhneas an Ghra'

ラーサリーナ・ニ・ホニーラ(Lasairfhíona Ní Chonaola)のアルバム Flame of Wine のトラック 7 'Aoibhneas An Ghrá' について、誰かが書くだろうと思っていたけれど、誰も書かない。そこで、メモ代わりに分かっていることを少し。 ライナーには、「この美…

日本料理のことわり(理)をはか(料)る

北大路魯山人「日本料理の基礎観念」 講習会の記録で、読みやすい。初出は「星岡」第37号(星岡窯研究所、昭和8〔1933〕年12月30日発行)。 見所は、日本料理のことわりを簡にして要を得たことばで歯に衣着せず語ったところ。食するだけの人にも、もちろん料…

Liam O Muirthile, 'Tine Chnámh'

〔蔵出し記事 20050928〕 2005年の夏、ゴールウェーで少し劇を見た。一つはドルイド・シングの渾名で呼ばれるドルイド一座によるシングの上演。世評は高かったが、私は必ずしも感心しなかった。特に、デアドラこと「悲しみのデルドラ」 Deirdre of the Sorro…

散文詩のように美しく深遠な短い戯曲

宮沢賢治「マリヴロンと少女」 もとになった童話「めくらぶどうと虹」と比べると、かなり読みにくく、むずかしい。会話の内容はほぼ同じであるものの、ぶどうと虹の対話が、少女ギルダと声楽家マリヴロン女史の対話に変わったことで、哲学や宗教の問答のよう…

鍔に DEUS on the guard

etc

〔蔵出し記事 20060504〕 江戸時代のキリシタン武士の存在を窺わせる発見があった。 産経新聞大阪版2006年5月3日付より。 鍔に DEUS アルファベットで「DEUS(デウス)」と刻まれた江戸時代の刀の鍔を、大阪府藤井寺市の刀剣類収集家、梅本勤さん(56)が発…

虹色のぶどうと虹との会話

宮沢賢治「めくらぶどうと虹」 宮沢賢治の「花鳥童話」のひとつ。後に、書き直して「マリヴロンと少女」という作品となる。 両者はよく似ており、全く同じ表現も多い。 けれども、根本的な違いもある。だれでも気づくのは、ぶどうと虹との会話が、後の改作で…

聴取録 Maire Brid Ui Nia, 'Brid Og Ni Mhaille'

コナマラのシャン・ノース・シンガー Máire Bríd Uí Nia のアルバム Bríd Óg Ní Mháille をレビューする。 Máire Bríd Uí Nia: Bríd Óg Ní Mháille (OECD-010, 1997?) rating: **1/2 sound quality: **1/2 Bríd Óg Ní Mháille Galway Bay The Blind Child Br…

毎年改訂されるアイルランド旅行ガイド

『A05 地球の歩き方 アイルランド 2013~2014』 毎年、内容が最新データに改訂されるアイルランドの旅行ガイドです。 ぼくは、ほぼ毎年アイルランドに出かけますが、ほぼ毎年、本書の新しい版を買っています。 知るかぎりでは、こんなふうに毎年改訂されるア…

1990年代の日本の外食文化の雰囲気をよく伝えるマンガ

久住昌之『孤独のグルメ 【新装版】』 淡々と綴られた短篇集のおもむきながら、あの頃の雰囲気がしっかり漂ってくる好ましいマンガだ。 主として東京のいろんな場所で食べた食事のあれこれが、気負いもなく、本当に淡々と綴られる。その場の雰囲気も過不足な…

1491年当時のイタリアを舞台――チェーザレとレオナルドの邂逅も

惣領冬実『チェーザレ 破壊の創造者(2)』 第1巻で衝撃を受けたシリーズだが、正直言って、この第2巻では、勉強になる部分もあるにはあるのだが、がっくりする面があった。 一つだけ例を挙げる。「プリマヴェッラ」の表記は一体どうして? と首をかしげる。…