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ラーサリーナ、トラック 7 の謎 Source of 'Aoibhneas an Ghra'


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 ラーサリーナ・ニ・ホニーラ(Lasairfhíona Ní Chonaola)のアルバム Flame of Wine のトラック 7 'Aoibhneas An Ghrá' について、誰かが書くだろうと思っていたけれど、誰も書かない。そこで、メモ代わりに分かっていることを少し。

 ライナーには、「この美しい詩は 12-16 世紀の Bardic Poetry の例」とある。そこで、多くの人が Bardic Poets のアンソロジーなどを探してみたはず。それについて誰も書かないのは、見つからなかったからなのか、それともあまりにも自明だから書くまでもないということか。

 ともあれ、アイルランド語詩の研究者以外はなかなかソースに辿りつかないだろうと考えられるので、一応書いておこう。この詩は著名な Tomás Ó Rathile 編 Dánta Grádha (1926; Cork UP, 1976) のほぼ巻頭の詩(2 番)だ。

 ただ、多少テクストは改変されている。以下、その異同(右側が原詩)。

Textual Difference

S1
rá (l. 2) < rádh
grá (l. 3) < grádh
marfach (l. 3) < marbhthach
aoibhneas (l. 4) < aoibhne

S2
urchóid (l. 2) < orchra

 これだけの違いがあるので、ラーサリーナはひょっとして別のテクストを用いたのかもしれない。

 さらに、ライナーの英文のほうには、「この愛の詩はフランス宮廷詩 'amour courtois' のスタイルの影響を少し受けている」とある。これはアイルランド語詩史では有名なテーゼの一つ。ラーサリーナがこういう面に関心を持っていることに少し驚くとともに嬉しい。