聴取録 Maire Brid Ui Nia, 'Brid Og Ni Mhaille'
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コナマラのシャン・ノース・シンガー Máire Bríd Uí Nia のアルバム Bríd Óg Ní Mháille をレビューする。
- Máire Bríd Uí Nia: Bríd Óg Ní Mháille (OECD-010, 1997?)
- rating: **1/2
- sound quality: **1/2
- Bríd Óg Ní Mháille
- Galway Bay
- The Blind Child
- Bríd Thomáis Mhurchú
- Going to Mass Last Sunday
- An Chríonach
- Water Is Wide
- Banks of Mulroy Bay
- Gleanntáin Ghlas' Ghaoth Dobhair
- The Evelyn Marie
- Amhrán na Muiríní
- Sweet Rathcoole
- Molly Baun
目次
内容
Muicineach-Idir-Dhá-Sháile 出身者特有の濃厚なシャン・ノースの歌と、ポピュラー・ソングとを組合せた自家盤。一部に簡単な英語の説明はあるが、基本的には(コナマラ・)アイルランド語話者向けのアルバム。ポピュラーなレパートリーは入っているが、コナマラ特有の流儀で唄われるため、一般には恐らくとっつきにくい。
総評
アルバム・タイトルは有名な歌の題名であり、エアとしても著名な曲。ドニゴール県のアルタンが Island Angel (1993) で採り上げており、最近ではラウス県出身のザ・コアズ(コアーズ)が Home (2005) で唄っている。
ほかにも、多くのアーティストが採り上げている。例えば、スコットランドの Andy M. Stewart & Manus Lunny が At It Again (1990) で、半分ドニゴールの Nightnoise が Celtic Christmas II (1996) で唄っている。また、ドニゴールの Máire Ní Choilm ("Máire Bheag") も唄っている。
歌の中の主人公のブリージはオーリエル (Oriel, Tír Oirghialla [Oiriall]) の娘だけれど、同地の歌唱伝統の研究書 Hidden Ulster (Pádraigín Ní Uallacháin 著)には採り上げられていない。しかし、広くアルスターで唄われている歌であるとは言えるだろう。ともあれ、本 CD では、この歌はドニゴールの歌とは捉えられず、コナマラの歌と考えられている節がある。
この歌がタイトルとなっているのは、少し訳がある。それは、歌い手の父親の姓が Máille なので、自分の名前と同じになる。その意味では、自身のテーマソングともなる。
なお、結婚相手はボクシング・チャンピオンの Máirtín Nee (Ros Muc 出身)。従って、彼女の名前を英語で表記すれば Mary Nee となる。 ディープな歌唱伝統 モーィラ・ブリージ・イニーアの出身地はコナマラは Camus (Camas) にある Muicineach-Idir-Dhá-Sháile で、恐らくアイルランド語の地名では最も長い。英語では Muikeanagh などと表記される。濃厚なアイルランド語歌唱の伝統があることで知られる。コナマラ人でさえ、あそこは異国情緒があると評するほど独特のディープな地である。
そこの歌唱伝統は、一聴すると忘れられないくらい、こてこてである。例えば、Griallais 姉妹の歌が典型的なもので、この地の名前を出せば、コナマラ人なら、みな同姉妹の顔と歌とを思い浮かべるだろう。アフリカ北部の混血が入っているような独特の顔立ちをしている。
どう形容すればよいか分からないくらい濃厚な唄い方で、私の感じではピッチ感に特有のものがあり、ある意味ではコナマラ・カントリー音楽とも共通する。音程の捉え方が独特なので、およそ電気楽器などとは、特にシンセサイザーなどとは合わない。その意味で、本 CD のトラック7は、できれば入れないほうがよかったろう。この地域の歌唱法を知らない人が聞くと、音程が外れているようにしか聞こえない。
しかし、歌に神経を集中させて聴けば、実にすばらしい唄い方である。歌に注意を向けると、逆に平均律の楽器のほうが狂っているように聞こえてくる。このように、極度の集中は必要だが、判って聴くと、例えば、トラック6 'An Chríonach' などの無伴奏歌唱は圧巻である。
それも当然である。彼女は、1993年のエラハタスでオリーアダ杯二位になったほどの実力を有する。1989年のエラハタスでは女性歌手部門で優勝した。なお、オリーアダ杯は男女無差別。
とは言っても、この流儀の歌は、シャン・ノース歌唱ファンであっても、中々受入れるのに時間がかかると思う。
附属の冊子は歌詞が正確に書かれ、彼女の歌い方もきちんとしたもので、アイルランド語歌唱に関心のある人には役に立つ。
Griallais 姉妹
最後に、この Muicineach-Idir-Dhá-Sháile 出身の Griallais 姉妹のことについて簡単に紹介する。
この三姉妹(きょうだいは全部で女11人、男1人)は、全員オリーアダ杯を獲得している。いかに音楽一家が多いアイルランドとは言え、これほどの一家は他に存在しない。まず、Nan Ghriallais が1973年に、続いて Sorcha Bean Uí Chonghaile (Sarah Ghriallais) が1984年にそれぞれ獲得している。極めつけは、1987年、89年、93年の三度、オリーアダ杯を獲得した Nóra Mhic Dhonncha である。三度同杯を獲得すると打ち止めになり、もうその上はないが、女性で三度獲得したのは彼女だけである。正真正銘の大歌手である。男性では他に、Nioclás Tóibín および Josie Sheáin Jack Mac Donnchdha (Seosamh Mac Donncha) および Éamonn Ó Donnchadha の三人がいる。
調べたところでは入手できる可能性はほぼゼロ。伝統音楽のライブラリを有する研究機関や資料館などでしか出会えないかもしれない。