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ジャズ・スクールでのトホホな日々はじまる


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大江千里『9th Note/Senri Oe II 痛み分けはジャズの味: 2 (カドカワ・ミニッツブック)』

 

承前)『9th Note/Senri Oe I 憂鬱のはじまり。: 1』ではシンガーソングライターの著者がニューヨークのジャズピアノ科に入学するまでをえがく。著者がアメリカを目指す理由はジャズの「謎」を解きたいから。

 クラス分けの試験二日目に寝坊して試験を受けそこなうところから始まる。どうも物事がうまく回転してゆかないもどかしさが全篇をおおう。苦しい。留学の苦労が出ている。同様の留学を考えている人には参考になるだろう。

 ジャズの和声の突っ込んだ話が出てくる。その話の途中にピアノに手を置いた写真がある。F#-B-E-A-Dの並びだ。人によってはAに中指を使うかもしれない(写真は人差し指)。4度系の和声。記号では∟F#と書いたりする(環境依存文字なので表示されないかもしれない。大文字のLに似た、四角の左下のような記号)。ジャズでは4度系のほうがふつうだ。ドミソは頭には入っているが、まず実際にはおさえない。

 アンナ先生の個人授業(基礎を学ぶプライベートレッスン)のもようが書かれているが、正直にいって先生は、この生徒はこんなことも知らないのかと心の中で呆れたのではないか。ミーガンの本くらいは読んできていると思っていたのではないか。

 著者はジャズの謎の中でも気になる「心地よさの素」について考えをめぐらす。まだ、そのヒントの片鱗も見えない。

 この苦しい日々の中で著者はある感懐をいだく。「日本を発つときには想像もしなかった、小さなミントの粒々のような刺激が、体の奥から湧き上がり始める。」と書くのだ。ふしぎな表現だけど、留学経験のある人は大なり小なりこんな感覚に心当たりがあるのではないか。

 電子書籍のフォーマットについて。第1巻はYONDEMILLというPC上で読むシステムで読んだ。お世辞にも美しいとはいえない表示だった。この第2巻はSony Reader Storeで購入し、Android上のリーダで読んだ。1920 x 1200のタブレットを使ったので、表示は実に精細で美しい。活字の感じが紙の文庫本を読んでいるときにかなり近い。ただし、Readerアプリは機能的にはハイライトなど最低限のものしか備えておらず、辞書を引くこともできない。