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詩 音楽 アイルランド

記事一覧

ケリー県のアイルランド語の語りをたっぷり収めた書

Bab Feiritéir, (Bo Almqvist, Roibeard Ó Cathasaigh, eds.) Ó Bhéal an Bhab (CIC, 2002) バブの語りを収めた本と二枚の CD は珍しいアイルランド語シャナハスの記録。ケリー県のアイルランド語の語りをたっぷり味わえる。 本の方は入手困難かもしれない。…

一歩先が見えない不況と限界集落の再生

鈴木みそ『限界集落温泉 1巻』(エンターブレイン、2010) 限界集落とは65歳以上の年寄りが村の人口の半分を超えた集落。行政も銭をださないところ。「寝たきり村」に近い。「ギリギリ」村。そこにある廃業同然の温泉旅館が舞台。 <ろくでなしも悪くない。…

海洋国アイルランド

The Galway Hookers 4th ed. le Richard J. Scott (A. K. Ilen, 2004) le DVD. [Ceannaithe i SPAR sa Cheathú Rua.] ゴールウェーの伝統的帆船(húicéir)の本。DVD (TG4 のアイルランド語番組)附き。この帆船(フーィケール、フッカー)を見るために訪愛…

一杯のコーヒーにも40年の思い出

岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る』(宝島社文庫、2013) 帰ってきました。あのぎこちない文体が。 第1作『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』でそれがやみつきになった読者は、しかし、これ…

異色のコーヒー・ミステリー――京都の珈琲店を舞台に謎の男女が蠢く

岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』(宝島社文庫、2012) 主人公アオヤマの(もと)恋人、虎谷真美がやたらと怖い。こんな恋人、ありか。 出会ったとたん、賀茂大橋から丸太町橋まで1キロも走って逃げるって、どれ…

ドイツとウクライナが交錯する現代史の裏面を抉るボルマンの力作

メヒティルト・ボルマン『希望のかたわれ』(河出書房新社、2015) インパクトのある本だ。 特に、ドイツ人の著者が、日本の〈福島の原発事故をきっかけ〉にして書いた本という事情を知ればなおさら。 ミステリ作家に分類されるかもしれないドイツ・ケルン生…

マッドガイド・ウォーター・シリーズの静かな開幕

梨木香歩『岸辺のヤービ』(福音館書店、2015) 水辺に棲むハリネズミのような生きものヤービと寄宿学校の教師が出会うところから物語がはじまる。梨木香歩が十年以上も温めてきた生命の交響詩ともいえるファンタジー小説の開幕。 ヤービと人間との異種間交…

生きているものは生きているものを食わなければ生きていけないのか

神沢利子『銀のほのおの国』(福音館書店、1972) 神沢利子のファンタジー小説。 版元では対象年齢を〈小学中学年から〉としている。だけど、大人が読んでもおもしろい。読む人によってその意味合いが変わり、深まるたぐいの物語だ。 主人公のたかしは小学6…

語りつがれた物語を愉しむ

バラエティアートワークス『千夜一夜物語 (まんがで読破)』(イーストプレス、2010) インド系、ペルシア系、アラビア系の説話集。英訳名『アラビアン・ナイト』でも知られる。原名はアラビア語で『アルフ・ライラ・ワ・ライラ』(「千夜と一夜」の意)。 全…

毛髪の健康は全身の健康を反映する

山田佳弘『髪は増える!』(自由国民社、2015) 本書のポイントは、初期のころにちゃんと取組むと、ほぼ8割の人に効果があること。そのころに、ちゃんと1年から2年間、取組めば、毛に元気が出てきて不安は無くなると(8頁)。 初期のころとは、毛の将来に不…

ロシア小説における「子供時代」のトポスの変遷

リュドミラ・ウリツカヤ『子供時代』(新潮社、2015)の「訳者あとがき」で沼野恭子は子供時代を扱ったロシア小説の系譜に触れている。 19世紀半ばから20世紀後半を眺めわたすと、〈ロシア文学には伝統的に「幸せな子供時代」と「惨めな子供時代」の両極が存…

1949年のモスクワの子供時代をとどめた奇跡の短編群

リュドミラ・ウリツカヤ『子供時代』(新潮社、2015) 著者のリュドミラ・ウリツカヤ(Людмила Улицкая)は1943年生れ。モスクワ大学では遺伝学を専攻した。現在ロシアでもっとも活躍する人気作家。その6編の短編を収める。1949年のモスクワとおぼしき町に住…

女性同士の美しい友情を女風呂で描く異色の作品

森薫『乙嫁語り 7巻』(KADOKAWA/エンターブレイン、2015) 『乙嫁語り』7巻はアニスの物語。旅するスミスが立寄った屋敷の奥方。 アニスが風呂屋に行き、友を得る話。女湯といっても湯舟はなく、サウナである。大衆が交流する場であり、自宅に風呂があるア…

Bob Quinn, The Atlantean Irish

Bob Quinn, The Atlantean Irish: Ireland's Oriental and Maritime Heritage (Lilliput Press, 2005) この本の著者 Bob Quinn がどのような主張をする論客であるかについては、たぶん十本くらいは書いたので、ここでは繰返さない。リリス・オ・リーレの最大…

今回は戦い。騎馬+弓のかっこよさよ

森薫『乙嫁語り 6巻』(KADOKAWA/エンターブレイン、2014) 森薫の「乙嫁語り」も、はや6巻。 相変わらず、森薫の描く絵は美しい。いや、美しいだけでなく、その緻密な絵の深みは、物語の陰翳を際立たせ、さらに説得力を増している。とくに、濃い黒を基調と…

元気すぎる双子のライラとレイリの結婚式は圧巻

森薫『乙嫁語り 5巻』(エンターブレイン、2013) ライラとレイリがいよいよ婚礼を迎える。まず、祝宴用に羊を下ろす場面。中央アジアの男の基礎教養だ。さばく前にまずは羊と神様に感謝してお祈りを捧げる。「慈悲深き神様の御名において」(コーラン〔クル…

ふたごの姉妹の婚活!

森薫『乙嫁語り 4巻』(エンターブレイン、2012) 中央アジアの言語を研究しているイギリス人スミスはカラザをあとにしアンカラへ向かう。その道中、アラル海(現在のウズベキスタン)で双子の姉妹ライラとレイリに出会う。旅の疲れから海中におちてしまった…

英国小説のベスト100を世界の批評家が選出

英 Guardian 紙が次の Tweet をした。 英国小説のベスト100を世界の批評家が選出した記事。 The best British novel of all time: have international critics found it? https://t.co/6iLoEk8pFQ — Guardian Books (@GuardianBooks) December 8, 2015 よく…

Tryptyk Rzymski - Jan Pawel II 感嘆(JP II の詩)

教皇ヨハネ・パウロ二世の詩集から。感嘆 森の木々が波となって流れくだるとき流れは感嘆することはない。しかし人は驚く。世界が通るこの入り口は驚きの入り口。(驚きはアダムと名づけられた)。 ものがみな感嘆しないなかでアダムはひとり感嘆する。もの…

イギリス人スミス、旅立つ

森薫『乙嫁語り 3巻』(エンターブレイン、2011) 中央アジアの嫁まんが第3弾はエイホン家に居候していたイギリス人研究者、ヘンリー・スミスがアンカラ目ざして旅立ち、案内人と待ち合わせるカラザに到着するところから幕を開ける。ところが、その待ち合わ…

中央アジアの嫁まんが第2弾。遊牧民と定住民の運命が交差する

森薫『乙嫁語り 2巻』(エンターブレイン、2010) 遊牧民出身の二十歳の花嫁アミル・ハルガルの物語第2巻は竃(かまど)の日で幕を開ける。つまり、パンを焼く日だ。嫁いだ先が定住民だったからこその場面だ。 これだけで、中央アジア方面のパンが好きな人な…

結婚適齢期15-16歳の中央アジアの嫁まんが

森薫『乙嫁語り 1巻』(エンターブレイン、2009) 舞台は19世紀中央アジア、カスピ海周辺の地方都市。物語は山を越えて遠くの村から馬に乗ってやって来た花嫁アミル・ハルガル20歳と花婿カルルク・エイホン12歳の婚礼で幕を開ける。 テュルク諸語(突厥諸語…

名探偵なんてフィクションでしかない

松岡圭祐『探偵の探偵4』(講談社、2015) 〈探偵の探偵〉という部署を探偵業会社に作らせた異色の探偵、紗崎玲奈。その助手だった峰森琴葉が拘置所内の連続怪死事件の容疑者とされる。この黒幕は精神科医にして探偵の姥妙悠児であるらしい。魂の抜け殻のよ…

ドクターマーティンズのエアソールシューズが探偵御用達?

松岡圭祐『探偵の探偵3』(講談社、2015) 松岡圭祐の最新のシリーズ「探偵の探偵」第3作。巻頭に「本書には、前巻までの真相が含まれています」とある。そうなのだ。プロットのどこを書いても、2巻までの読者にとってネタバレになる。 そこで、やむなく小道…

シリーズ第2巻にしてエンジン全開!

松岡圭祐『探偵の探偵2』(講談社、2014) 特異なコンセプトを設定した第1巻に続くこの第2巻。松岡ぶしは全開だ。あらゆる点から見て第一級のサスペンス小説に開花した。 悪徳探偵を潰す使命を帯びた主人公、紗崎玲奈(ささきれな)。今回、決定的に大きな進…

シリーズ「探偵の探偵」の序曲

松岡圭祐『探偵の探偵』(講談社、2014) 主人公の紗崎玲奈(ささきれな)は探偵の探偵である。しかし、厳密には両者は同じでない。前者は悪徳探偵。後者はその悪徳ぶりをあぶりだす探偵だ。つまり、玲奈は悪徳探偵をあぶりだす探偵だ。ある意味、「同業者潰…

やっぱり惹き込まれる

三上延『ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス、2014) 本作から読み始める人のための情報も一応ある。けど、これまでシリーズを追っかけて来た読者なら、一発で惹き込まれる(だろう)。

アイルランド語歌唱教則本 Tutorials on Singing in Irish

知る限りでは世の中に二点、アイルランド語歌唱教則本が存在する。まことに少ない情報で申し訳ないが、一応列挙しておく。

人を捨てよ、書へ向かえ

三上延『ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス、2014) 本を開いた瞬間、狂喜した。ブローティガン『愛のゆくえ』とあったから。

新たな要素を加え物語は後半にさしかかる

三上延『ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~』(アスキー・メディアワークス、2013) 「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズも第4巻を迎えた。いろいろと新しい要素が加わっているが、まだまだ続くと思っていたのが、「この物語もそろそろ後半…