バラエティアートワークス『千夜一夜物語 (まんがで読破)』(イーストプレス、2010)
インド系、ペルシア系、アラビア系の説話集。英訳名『アラビアン・ナイト』でも知られる。原名はアラビア語で『アルフ・ライラ・ワ・ライラ』(「千夜と一夜」の意)。
全体の枠をなす物語(枠物語)の中に多くの説話が集められている。説話の数は最新の校訂本(Muhsin Mahdi 編)によると35編ほどで、それが271夜にわたって語られた。本書に言及があるバートン版になると、いろいろと寄せ集めてふくらまし、脚色も含んでいる。日本語訳が出ているもののうち、バートン版とあれば、それは英訳からの重訳である。アラビア語からの翻訳は平凡社東洋文庫版『アラビアン・ナイト』がある。
本書に収められた物語は七つ。うち一つは枠物語である「シェハラザードと王のはじまりの物語」だから、残る六つが語られる物語ということになる。少ないようだが、べつに千一夜にわたって物語られた訳でなく、その原型は40話未満だから、本書は抜粋としては十分に堪能できる分量であり、それぞれ物語として面白い。
「シェハラザードと王のはじまりの物語」
枠物語。サーサーン朝の王シャハリヤールが弟のシャー・ザマーン王に会いたくなり、呼び寄せる。弟王は出発するが忘れ物に気づき城に戻る。そこで妻の不貞を目撃する。目の前が真っ暗になるが妻を切り殺してから兄王の都へ向かう。ところが、兄もまたその妃に裏切られていた。兄王は弟と旅に出る。そこでも女心の恐ろしさを見せられる。国に帰った王は妃を殺し、毎晩処女を求めては翌朝に殺すようになる。三年たち国中から乙女が消える。大臣の娘シェハラザードは自ら進んで王のもとに嫁ぐ。その夜から千夜一夜が始まる。毎夜、面白い話を王に聞かせるが夜が明けても話が終わらぬので、王はシェハラザードを殺さず第二夜に続きを話させる。こうして千夜一夜を語り明かす。
語られる物語は「せむし男の物語」「美しきジャリスとアル・ディンの物語」「アジズとアジザの物語」「空飛ぶ黒檀の木馬の物語」「床屋と紺屋の物語」「靴直しのマアルフと女房ファティマーの物語」の六つ。最後に「大団円」。
本書を読んで興味を惹かれ、最新の校訂本を読みたい場合、英訳(Husain Haddawy 訳)が簡単に入手できる。この校訂本の日本語訳はまだない。