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結婚適齢期15-16歳の中央アジアの嫁まんが


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森薫乙嫁語り 1巻』エンターブレイン、2009)

 

 舞台は19世紀中央アジアカスピ海周辺の地方都市。物語は山を越えて遠くの村から馬に乗ってやって来た花嫁アミル・ハルガル20歳と花婿カルルク・エイホン12歳の婚礼で幕を開ける。

 テュルク諸語(突厥諸語)が話される地域らしい。クタール(祭り)が9月頃にあるなどと話される。

 アミルのハルガル家は夏だけ移動し冬は冬営地で暮らす移牧タイプの遊牧民。カルルク(この名は6-13世紀頃活躍したテュルク系氏族の名前)のエイホン家は元はハルガル家と同じ遊牧民だったが、何代か前に定住化した。

 アミルの眼が圧倒的に美しい。民族衣装も。何より存在じたいが。カルルクも美しいが、まだ少年ゆえ、人間としての開花はこれからだと思わせられる。

 アミルは人形のような美人ではない。行動的な美人だ。スープにうさぎが要ると思えば、馬に乗り、嫁入り道具の弓をかついで狩にゆく。そのスピード感。追物射(騎射)で仕留め、馬上でうさぎ二羽をぶらさげ破顔一笑。どこをとっても絵になる。というかどの場面でもアミルの姿のみが美しさと圧倒的な描き込みにより際立つ。

 ところが、アミルを連れ戻せという計画が持ち上がる。嫁に出した別の娘が早くに死んだため、その土地を失うのを恐れて代わりにあてがえる娘をと考えたのだ。アミルの運命やいかに。

 第二話「お守り」の木彫の美しさには息を呑む。マンガでここまでの表現がありうるのか。

 BDなみの精密さなんていうと、日本のマンガ好きの人に怒られるかもしれないけれど。ちなみに、第16回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞(2012)はBDの『闇の国々』が受賞したけど、森薫『エマ』は第9回文化庁メディア芸術祭マンガ部門(2005)の優秀賞を受賞した。この乙嫁語り』は第39回アングレーム国際漫画祭世代間賞(2012)を受賞している。フランスのマンガが日本の賞を、日本のマンガがフランスの賞をとる。いい時代ではないか。

 第四話「アミルをかえせ」でアミルを連れ戻しに来たハルガル家の長兄アゼルを跳ね返す祖母バルキルシュの胆力が頼もしい。彼女の里方はハルガル家の一族で、嫁入り道具に携えた弓で威嚇する豪傑。

 アミルが結婚した年下の夫カルルクは末っ子だが、末子相続ゆえ彼が後継ぎだ。カルルクの姉セイレケの末子ロステムは好奇心旺盛(特に木彫に関心)でおねしょもするやんちゃな男の子だが、末子が何かと気になる物語だ。

 ここから物語が始まるわけだが、中央アジアの文物に関心があり、森薫の精緻な絵が好きな人ならいっぺんにはまりそう。