一杯のコーヒーにも40年の思い出
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岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る』(宝島社文庫、2013)
帰ってきました。あのぎこちない文体が。
第1作『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』でそれがやみつきになった読者は、しかし、これがいいと思う。24歳のバリスタ切間美星は今回はどんな活躍をみせるのか。
語り手アオヤマは少し年下。本作では美星の妹、美空が夏休みを利用して京都にやってくる。
全部で7章からなる。前半の3章は前作のように、いろんな小さな謎を美星が解決するという、どちらかといえば地味な話。
ところが、第4章「珈琲探偵レイラの事件簿」から急に加速して、雰囲気が緊迫してくる。そこに妹の美空が大いにからむ。
最終的には京都の地理を活用したダイナミックな展開となる。本書冒頭に京都の地図が2枚ついていて参考にはなるが、最後の車の移動の場面では肝腎のところが役に立たない。致命的な欠陥は地図に鞍馬口通(東西の通りで、北大路通の南にある)が記されていないことだ。この知識がないと328ページの話は地元の人でもないかぎり訳が分らないと思う。京都では東西であろうが南北であろうが「通」を使うので、きちんと書かないと、地名を知らない人には分らない。
トルコの諺「一杯のコーヒーにも40年の思い出」は、ささやかな親切でも、受けた側は長い間忘れられないことを表す。いいことばだ。美星と美空をめぐる、ある大きな謎も、そのような余韻をのこす。