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新たな要素を加え物語は後半にさしかかる


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三上延ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~』アスキー・メディアワークス、2013)

 

 「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズも第4巻を迎えた。いろいろと新しい要素が加わっているが、まだまだ続くと思っていたのが、「この物語もそろそろ後半です」と著者が「あとがき」で述べているのに少しびっくりする。

 連作短編でなく長編小説になったのは江戸川乱歩という作家をまるごと取上げることにしたかららしい。2012年5月から資料を読み始め、完成させたのが2013年1月頃のことで、まる8ヶ月はかかっていることになる。

 それにしては、というべきか、それだからこそ、というべきか、題材の消化度がもう一つだ。これまでの3巻のように1冊の作品にしぼった謎を展開したほうがプロットに締まりが出たのではないか。一人の作家まるごとを取上げ、それにからむミステリーを作り上げるには、時間も分量も足りなかった。乱歩の大人向きの作品と児童向きの作品とを共に扱ったのも、作品の統合に当たっては困難となったのではないか。

 登場人物の中で栞子の母智恵子や、ヒトリ書房の店主井上、またせどり屋の志田などの知られざる面が出てきたのは、物語の後半に向けての布石かもしれない。本書ではそちらのほうが本そのものをめぐる謎よりも興味深い。

 話は2011年4月頃に設定されており、当然のことながら東日本大震災の影響は小さくない。今回、栞子に謎の解決を依頼した人物が行動を起こしたきっかけは震災だった。「人間、明日どうなるか分からないでしょう。今したいことをしておかないと、悔いが残るって思ってるのよ」この重い言葉は、物語の主要な登場人物たちにもおそらく深いところで色濃く影響を与えている。