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人を捨てよ、書へ向かえ


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三上延ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~』KADOKAWA/アスキー・メディアワークス、2014)

 

 本を開いた瞬間、狂喜した。ブローティガン『愛のゆくえ』とあったから。

 だけど、読んでみて、ほとんど関係なかった。この使い方はない。

 さらに、めずらしく、誤植が目立つ。「僕と栞子さんは大船駅で持ち合わせた」って何よ。「門野久枝の方がぶるっと震える」を見た時には目が点になった。校正者不在か。そのすぐあとにも「この家の人たちはもみんな彼女をとても慕っていた」などとあり、とてもKADOKAWAから出た本とも思えない。

 『彷書月刊』『ブラック・ジャック』『われに五月を』の三話が収められている。三話を通じ、栞子と五浦大輔の恋のゆくえ、栞子と母・智恵子との関係も同時進行する。

 この二つの関係はからむ。根本的には智恵子の、人より知識に関心がある性格が問題であることが徐々に判明する。そのことと、栞子が大輔の交際申込への返事を遅らせていることとがなぜか関係するらしい。つまり、第三話で取上げられる寺山修司の『書を捨てよ、町へ出よう』とは逆で、人を捨ててまで書のほうに向かう姿勢が問題になる。

 考えようによっては、本好きが嵩じた病のようなものだけれど、この母子の場合、それが周りの人間にまで波紋を広げるところが問題だ。といって、他人事のように言ってすませるわけにもいかない。本にのめり込むタイプの人には多かれ少なかれ、そんな面があるからだ。

 話として本シリーズのこれまでの水準にかろうじて達しているのは第二話くらいか。栞子と大輔と智恵子の人間関係に大きな影響のある点では第三話はそれなりに意味がある。よほどのファン以外にはお奨めできない。物語は終盤に入っているとのことなので、次の第六巻も読むだろうけれど。

 ところで、 「プロローグ」の日付は誤植ではない。この語り手はだれか。