ジョン・クラッセン『ちがうねん』(クレヨンハウス、2012) 大阪は藤井寺出身の絵本作家・長谷川義史が大阪弁で翻訳した絵本。大きな魚が帽子を盗られた。果たして取り返せるのか?すっとぼけた小魚が犯人と初めから分かっている。ミステリでいうなら「倒叙…
ジョン・クラッセン『どこいったん』(クレヨンハウス、2011) ジョン・クラッセンの2つの絵本『どこ いったん』(クレヨンハウス、2011)と『ちがうねん』(クレヨンハウス、2012)は大阪は藤井寺出身の絵本作家・長谷川義史が大阪弁で翻訳している。 この…
葉山 透『0能者ミナト (9)』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス、2015) ダイダラボッチという名前は聞いたことがあった。宮崎駿の映画「もののけ姫」で見たことがある。 だから、大体のイメジはあったものの、本作に出てきたダイダラボッチは、もっと神…
葉山 透『0能者ミナト (8)』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス、2014) 霊能力などによらず、論理と理性で怪異の問題を解くがゆえに、その筋では評判の悪い湊が主人公のシリーズも第8巻まで来た。今回の怪異事件は人里離れた館で発見されるふたりの赤…
アレクサンドル・アレクセビッチ ワノフスキー『火山と日本の神話』(桃山堂、2016) 亡命ロシア人として日本にくらしたアレクサンドル・ワノフスキー(1874-1967)の著作『火山と太陽』(1955)を収め、多角的に検討した書。主 として古事記の新解釈を行い…
松岡圭祐『探偵の鑑定2』(講談社、2016) 『探偵の鑑定1』の続き。 ※『1』未読の人はご注意ください。 『1』で「探偵の探偵」玲奈と、「万能鑑定士」莉子という2枚の切り札を切った著者。二大人気シリーズの主人公を合流させた展開に驚かされた。 が、『2…
松岡圭祐『探偵の鑑定1』(講談社、2016) 探偵の探偵、玲奈の世界に万能鑑定士Q、莉子がからむ。このあり得ない設定は、いわば著者の得意技だ。そこまでは想定の範囲内だったけど、読んでみて、うならされた。まさか、こうなるとは。 どうやら、本作で2シ…
大橋力『音と文明』(岩波書店、2003) 言語脳の知に覆いつくされた現代。はたして非言語脳の知を回復する手立てがあるのか。そんなスリリングな問いを立て、どこまで分かり、どこまでが可能なのかを、諸学の成果を結集し、環境学者として、音楽家として、緻密…
南潔『黄昏古書店の家政婦さん ~下町純情恋模様~』 誤解を受けやすいタイトルと表紙。しかし、読んでみると、そんなことはない。 古書店と若い女性。この取合せから想像される、例の謎解きに富んだ、古書の蘊蓄満載の人気シリーズとは趣を異にする。 これ…
ジャック・アタリ『21世紀の歴史』(作品社、2008) ジャック・アタリのこの本(原著2006年刊)は21世紀の今後を予測するうえで貴重な洞察や提言に満ちている。それだけでなく、過去の歴史についても創見(ひとによっては偏見ととるだろう)があふれている。 …
日本の医療費は38兆円。 これが医療が「商品」になると100兆円になるという。巨大な市場だ。米国は参入しようとして虎視眈々と機会を狙っている。 堤未香さんが自著『沈みゆく大国アメリカ』から次の箇所を朗読した(BS日テレ「久米書店」2016年6月5日再放送…
ミハル・アイヴァス『もうひとつの街』 チェコの作家ミハル・アイヴァスが1993年に書き2005年に大幅に改訂した小説。mythopoeia という言葉があるが、まさにそのような、神話的な詩とも詩的神話ともいえる作品。1949年10月30日プラハ生まれだが父親はクリミ…
牧野恭仁雄『みんなで読み解く漢字のなりたち2 人の姿からうまれた漢字 みんなで読み解く漢字のなりたちシリーズ』 ふだん使う漢字は300の絵の組合せから成る。そういう観点から漢字を解き明かす「絵解き」はまだ新しい分野だという。 漢字の成立ちは今の楷…
川上弘美『センセイの鞄』 女性作家の作品で女性が「用を足す」場面が印象に残る小説はめずらしい。評者が知る限りでもあと一つしかない(ジェニファ・イーガン)。この「用足し」が小説の中の重要な場面に現れる。たいがい、主人公の女性とその先生とが、微…
こんにちは。 以前にも書いたかもしれませんが、主として note に書くことが多いのが現況です。もし興味がおありの場合は、そちらを覗いてください。 このブログは月に1回程度更新する予定です。
ジョイス、バラエティアートワークス『ユリシーズ(まんがで読破)』 世に言う「ブルームズデー」をえがくジョイスの小説をまんが化したもの。382ページあるけれども、おもしろいのでまったく退屈しない。 アイルランド・ダブリンの1904年6月16日の一日をえが…
横山秀夫『深追い』 横山秀夫は短編でも抜群のストーリーテラーだ。 例えば、冒頭の表題作。「深追い」とは刑事のある種の習性を示唆する何とも地味なタイトルで、正直あまり期待せずに読み始める。ところが、物語が進むにつれて「深追い」の真の意味がわか…
宮澤伊織『神々の歩法』 うーん。これが受賞作かというのが第一印象。 ニーナの運命が気になるというのが第二印象。 英語の発音がおかし過ぎて唖然というのが第三印象。 そのほか、作品ではないが審査員の短編観に大丈夫かと思った。これが判った以上、今後…
ポール・モーガン『ペラギウス・コード -古代ローマの残照の彼方にー』 4-5世紀のローマ帝国の末期的状況をアウグスティヌスの論敵であったペラギウスを中心にえがいた歴史小説。原著は2005年にオーストラリアのペンギン・ヴァイキング社から The Pelagius …
飛浩隆『自生の夢』 飛浩隆「La Poésie sauvage」(「現代詩手帖」2015年5月号)が本作「自生の夢」(2009)の延長として生まれた。「La Poésie sauvage」に感じ取れたのと同質の詩情(ポエジー)を期待したが本作にそれはない。むしろ、得体の知れぬ巨悪の…
中田考『イスラームのロジック―アッラーフから原理主義まで』 目次 入門書ではない 普遍性 現代から過去へ 二〇世紀 イスラエル 多神教 vs. 一神教 イスラームとヨーロッパ 十字軍パラダイム 入門書ではない イスラームに関する入門書とはいえない。イスラー…
太宰治の短編小説「善蔵を思う」(1940年4月)は表題と中身が合わぬ。善蔵とは太宰の同郷の作家、葛西善蔵のことなのであるが、作中にはそれらしき人物が登場しない。ゆえに、読んだ人は表題の意味について首をかしげることになる。 主人公はDという青森出身…
ドストエフスキー「キリストのヨルカに召された少年」 フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(1821-1881)が晩年に「作家の日記」誌1876年1月号に発表した短篇。「キリストのヨルカに召されし少年」の題でも知られる。 ヨルカはクリスマス・ツリー…
乾石智子『紐結びの魔道師: 1 』 山形県の作家・乾石智子のファンタジー作品。短編集『オーリエラントの魔道師たち』に収められた四篇のうちの一篇「紐結びの魔道師」を、「オーリエラント」の世界の入門書として独立させたもの。 紐結びの魔道師と貴石占術…
森住明弘『環境とつきあう50話』 ぜひ電子書籍化してほしい。岩波ジュニア新書には良い本が多いが、この本もジュニア新書の名著のひとつだ。 タイトルからすると気軽な話題が多そうだが、読んでみると、どれもけっこう重い話だ。大げさにいうと、生存に関わ…
中谷宇吉郎「アラスカの氷河」 雪の博士として知られる中谷宇吉郎の紀行文。アラスカで見聞した氷河の美を綴った文章。 中谷博士のことばで「雪は天から送られた手紙である」というのがある。世界で初めて人工雪を作るのに成功した科学者ということをたとえ…
野上秀雄『歴史の中のエズラ・パウンド』 考えてみれば、エズラ・パウンド(米国詩人)は片山広子(日本の歌人、翻訳家)や芥川龍之介と同時代人である。パウンドが1885年生まれ、片山が1878年生まれ、芥川が1892年生まれである。 それがどうしたと言われそ…
芥川龍之介「三つのなぜ」 芥川龍之介(1892-1927)の最晩年の短篇小説である。 1927年に発表された。ところが、作品に「(一五・四・一二)」の但書が附されている。大正15(1926)年4月12日と、わざわざ記されていることになる。これは何を意味するのか。 …
西田幾多郎「読書」 京都に「哲学の道」と呼ばれる道がある。銀閣寺道から永観堂までつづく疎水ぞいの美しい小径である。近くに下宿していたのでよく通った。季節ごとに表情をかえ、歩きながら思索するにもってこいの道だ。 その小径に哲学の名が冠せられる…
青柳碧人『浜村渚の計算ノート』 著者のデビュー作。 人気を博しシリーズ化されている。2014年時点でシリーズが6巻目まで刊行されている。 義務教育における理数系科目の削減に憤った数学者が数学の復権を迫るために数学的謎をからめたテロをしかけ、それに…