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切り札をあと2枚切る衝撃の展開


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松岡圭祐『探偵の鑑定2』講談社、2016)

 

『探偵の鑑定1』の続き。
※『1』未読の人はご注意ください。















『1』で「探偵の探偵」玲奈と、「万能鑑定士」莉子という2枚の切り札を切った著者。二大人気シリーズの主人公を合流させた展開に驚かされた。

が、『2』ではさらに驚かされることになる。松岡圭佑には人気シリーズが多数あるが、その主人公たちはいずれもスペシャルな能力の持ち主。玲奈と莉子だけ でもすごいのに、さらにあと2枚の切り札が別シリーズから切られるなどという事態は、読者のだれも想像もしなかったに違いない。

その別の2シリーズの主人公とは「特等添乗員」絢奈と、「水鏡推理」瑞希。

あらためて4シリーズの特色を振返ると、「万能鑑定士」はあらゆる物の鑑定にかかわる知識が、「特等添乗員」は旅行にまつわるあらゆる事柄への柔軟な閃き が、「水鏡推理」は判断推理の冴えが、それぞれテーマとなっていた。「探偵の探偵」だけは暴力を中心とする点で以上3シリーズとは異質で、ヤクザまがいの 探偵業にからむ裏の知識が鍵をにぎる。

これら性格の違う4シリーズがいったいどうやって一つのプロットに収まるのだろうと、だれしも思うところだが、著者はそれを見事にやってのける。精密な構成のもと、緻密に組み上げられた展開には息を呑む。

著者はインタビューで、これらの登場人物を用意すると、あとは勝手に動き出したと語る。そうなれば、作家にとっての醍醐味だろう。

探偵事務所スマ・リサーチの社長の須磨は最後は桐島と二人で暴力団に対決しようとする。そのために、他の社員は全員、安全圏に追い払ったつもりでいた。ところが——。須磨はこう話す。

みな力になろうとしている。意外かつ異常な事態だった。それでも憂愁が情緒的に発酵し、かえって歓びに似た感情を生じさせる。

この須磨対社員の構図は、そのまま本作の究極の目的と、全主人公との関係に当てはまる。全員がある一つのことを目指して協同するのだ。ミステリにあり得ないくらいの、そう、まるで『指輪物語』の「旅の仲間」のような、高揚した連帯感がある。たぐいまれな作品だ。

 

探偵の鑑定2 (講談社文庫)

探偵の鑑定2 (講談社文庫)