比較神話学と詩的直観
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アレクサンドル・アレクセビッチ ワノフスキー『火山と日本の神話』(桃山堂、2016)
亡命ロシア人として日本にくらしたアレクサンドル・ワノフスキー(1874-1967)の著作『火山と太陽』(1955)を収め、多角的に検討した書。主 として古事記の新解釈を行い、古事記の創世神話は女神イザナミを火山神とする神話であると読み解く。ワノフスキー自身はロシアでは理工系の大学教育を受け た革命家であり、古事記研究の分野ではアマチュアである。古事記研究にかかわるさまざまの古今の日本語文献は翻訳者ミハイル・グリゴーリエフの協力をあお いで読み進めた。
ワノフスキーは古事記を比較神話学的な観点からみる。そういうことは日本人もやるけれども、ロシア人ならではの視点がうかがえる。その最たるものが、古事 記の神話を「二つの異なった神話的体系、一つはメソポタミヤとその起源を等しくする聖書神話から持ち込まれた体系、もう一つは火山的自然現象の影響の下 で、日本において起こった体系、この二つの体系の相互作用の成果である」と見る観点だ(76頁)。
本書の議論のほぼすべては後者を軸とする。ところが、もう一つの柱である前者については、この箇所以外にほとんど言及がない。これはおかしなことではないか。ワノフスキーの古事記研究を正当に評価するなら、両者はバランスをもって検討すべきではないか。
おそらくは、そこを掘下げると、日本ではトンデモ本に分類されて、本書自体が無視されてしまうのを恐れたのだろう。だから、ワノフスキー説にコメントを加 える学者たちも、その点はまったくふれない。ふれるとしたらワノフスキーの詩的感性くらいだ。確かに、詩人のような直観でもって日本の火山現象と古事記と を結びつけた面はある。それでも、なぜ前者を閑却したのかは疑問である。それくらいの勇気をもたなければ、おそらく本書は決定的なインパクトをもち得ない だろう。それだけでなく、ワノフスキー研究としても不完全である。火山の方は詩的直観ということで黒白がつかないとしても、前者の方はいくらでも考察や研 究が可能であり、おそらくは何らかの確かな結論が導きだし得る。
- 作者: アレクサンドル・アレクセビッチワノフスキー,鎌田東二,野村律夫,保立道久,蒲池明弘
- 出版社/メーカー: 桃山堂
- 発売日: 2016/02/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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