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キジ・ジョンスンの日本を舞台にした短篇


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Kij Johnson, The Cat Who Walked a Thousand Miles (A Tor.Com Original)

 

 Small Cat という猫が主人公。都で廃屋となった大きな屋敷の庭に暮らしている。ある日、地震が起き、つづいて都じゅうが火事になる。

 この出来事は Small Cat の環境に激変をもたらした。いままで一緒に暮らしていた猫の仲間は一匹も見つからない。どこへ行ったのか。無事なのか。猫どころか、いままで敷地内に共存していた生き物の影も見えない。蛙も、虫も、鴨も、鼠もいない。若い猫ゆえ、初体験の地震にどう処してよいか分からない。

 かつて共に暮らしていたとき、猫たちはある物語を共有していた。fudoki である。先祖代々その地に暮らしてきた猫の家系の物語である。土地と猫の結びつきを語る fudoki こそは、彼らの自己証明でもあった。

 ところが、そのふるさとの土地を失い、仲間も失った Small Cat は、みずからだけをその fudoki の系譜の生きた一員として、新たな道を進んでゆかなくてはならない。風土記を想わせるこの fudoki を携えて、移住を開始する。果たして新しい安住の地は見つかるのか。彼らの fudoki で語られる伝説の猫 The Cat From The North を知る猫に会うことはできるのか。

 かくて、都を出た Small Cat は北をめざす。途中でさまざまな生き物や人間に出会う。猫といえども初めから敏く注意深い生きものでないことは、この巡礼の旅で Small Cat がいかに成長するかを読めばわかる。出会う生きものがそれぞれに生存のための厳しい戦いを強いられているのを知れば、同じ世界に生きる仲間であるという感覚も生まれてくる。

 Kij Johnson はファンタジーや SF の分野で高い評価を受けている米国の作家。日本語訳は短篇集『霧に橋を架ける』が2014年5月に東京創元社から刊行されている。現在はカンザス大学英文科の小説創作部門の准教授。本書は Goñi Montes のカラー挿絵が9点附いている。

 

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[Mt. Fuji-san の章]

 

The Cat Who Walked a Thousand Miles: A Tor.Com Original

The Cat Who Walked a Thousand Miles: A Tor.Com Original