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くくり伝承と童謡がからむ物語


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姫野春『くくりひめ』双葉社、2012)

 

【お断り】本書はE★エブリスタ電子書籍大賞2012大賞受賞作品で、賞は電子書籍として受けた。以下は、その電子書籍を対象とした書評。ただし、書影は紙冊体のそれ。

 エブリスタ電子書籍大賞「ホラー・サスペンス部門」を受賞した作品。ファンタジー・ホラー小説と銘打たれている。くくりの巫女にかかわる伝承が現代にも生きているという点でファンタジー色はあるが、くくりの巫女が生あるものを死へと誘う役割をする点ではホラー色がつよい。

 本書では童謡も重要な役割をする。随所によく知られた童謡が出てきて、その隠された意味が恐怖のうちに浮かび上がるという構造になっている。

 古来、世界各地の童謡には、一見子供向きに見える、ほのぼのとした側面以外に、深層に恐ろしい世界を内蔵するという場合が少なくない。この作品もそうした構造を応用し、くくり伝承と結びつけることで、子供が関わる恐ろしい世界を現出することに成功している。全篇をとおして確かに恐ろしいのだけど、その恐ろしいなかに、純粋な、純真といってもよい子供心もまた籠められていて、それが感動を誘う。

 なお、日本書紀に出る菊理媛神(くくりひめのかみ)は縁結びの神とされるが、本書のように生者を死者へと導く巫女的、あるいはシャーマン的な役割は決して無縁ではない。

 一つだけ読みづらいと思った点は、同じ読みで漢字表記だけを変えた読みにくい登場人物名である。おとが重要であり、同じおとを持つ違う人物を区別するための便法とは思うが、もう一工夫あってもよかった。