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「星守る犬」と人間とのかかわりをえがく


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原田 マハ(原作 村上 たかし)『小説 星守る犬双葉文庫、2014)



 村上たかしのマンガ『星守る犬』を原田マハが小説化した作品。執筆は2011年の初めで、6月には双葉社から単行本として刊行された。ここで取上げるのは2014年6月に同社から出た文庫版。マンガの英訳版の題 Stargazing Dog は、英語の 'stargazer' (「星を見つめる人」以外に「空想家」「夢想家」の意がある)を連想させる。

 原田マハが本書執筆中に東日本大震災が起こったのは偶然のこととは思えない。福祉事務所につとめる奥津京介の飼い犬は原作では名がなかった。東日本大震災で三週間ぶりに救出され飼い主のもとへ戻った犬の名「バン」が本書で採用されることになる。

 人の死を描く文学は少なくない。本書も人の死がえがかれるが、その人に最後まで寄り添った犬の死までえがく文学はめずらしい。本書を読んだ人は、どちらかというと、犬の視点でこの物語を受取るのではないか。といっても、犬はそれほど目がよくないらしい。それでも、そんな目で見つめる星空の美しさが、なぜかくっきりと心のなかに浮かぶ。星空を共に見つめる人と犬の情景が印象に残る。犬の視点から星がどう見えるかについて、こう語られる。

ぼくたち犬は、視力が弱いから、細かい光は見えない。だけど、ぼくたちは感じることができる。星の輝きを。その遠さを。ぼくたちに降り注ぐ静かな光を。


 かりに本作品が人間の側からだけえがかれていたら、単なる感傷的小説に終わっていたかもしれない。けれど、人間の感傷が犬の一途な「思い」と混ぜ合わされることによって、忘れがたい作品になった。