中川 八洋『正統の哲学 異端の思想―「人権」「平等」「民主」の禍毒』(徳間書店、1996)
献辞にこうある。「本書を、バーク、トックヴィル、チャーチル、ハイエク、孔子の、五哲人の霊に捧げる。」筆頭にあげられたのがバークだ。
欧米で conservatism (保守主義、真正自由主義)といわれる政治哲学の開祖として知られるエドマンド・バーク(1729-97)。バークはアイルランドはダブリン生まれの政治家だ。
日本ではアイルランド関係の学会等でときどき取上げられることがあるが、一般的にはバークの思想についてはよく知られていないだろう。
1991年は多くの出来事が起こった年だ。リトアニア、エストニア、ラトビアのバルト三国が独立を宣言し、ソビエトの15共和国による連邦体制は崩壊した。ワルシャワ条約機構が廃止され、ついに12月25日にソビエト連邦が解体された。
この出来事を米国側は「冷戦の勝利」と呼んだ。この「冷戦の勝利」を本書では「バークの勝利」とも呼ぶ。
その政治哲学的な道筋を丁寧に解き明かしたのが本書だ。準マルキストのラスキをして「バークに学ばぬ政治家は、海図を持たない海上の水夫同然である」と言わしめたバーク。本書は一般向きに書かれた書として名著のほまれ高いが、残念ながら現在は古書でしか入手できない。復刻が望まれる。