Faber & Faber Poetry Diary 2015: Green (Faber, 2014)
いつごろから出ているのだろうか。英国のフェーバー社が詩の日記を出版している。少なくとも2013年版から毎年出ている。フェーバー社にゆかりの詩人たちの詩や詩集が紙面ところせましと載っている。
フェーバー社といえばその創設期に詩人のT・S・エリオットが文学顧問として関わっていた。もちろん、エリオットの多くの作品が同社から刊行されている。
そういう出自があるので、同社の出版目録にはウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』などのフィクションも含まれるが、中核になるのは詩である。大抵の場合、同じ作品が米国の出版社からも出るけれども、微妙な違いがあるので、今でも英国版のほうがスタンダードである。
本書は日記という実用面と詩集という文学面とがある。
今年の本の基本色はシェーマス・ヒーニの2006年の詩集『郊外線と環状線』初版の色から採られている。つまり、緑とレモン色だが、緑を貴重とする本(本書)とレモン色を貴重とする本の二種類が出版されている。どちらも美しいが評者は緑のほうを択んだ。ヒーニのその詩集の隣に置くといい感じだ。表紙の写真の右側に見える縦線はゴム・バンド。緑の栞ひもが一本附いている。
中を開けると、右側のページに一週間の日誌が書けるようになっており、左側のページに詩が一篇または詩集の表紙が載っている。選ばれている詩や詩集は趣向が凝らされており、日々が詩によって楽しくなる工夫がされている。
収められている詩の例を一つだけ挙げる。2月の第1週は Mark Ford の「アフリカ後」'After Africa' という詩が載っている。ケニア生まれの英国の詩人。この詩は2011年フェーバー刊の詩集『六人の子ども』から採られている。
ものすごく面白い詩だ。4行連5つからなる20行の詩。一見すると、まるで12世紀トゥルバドゥールに発するセスティーナ詩形かと思えるが、セスティーナが6行連であるのに対しこちらは4行連だから違う。こんな詩形は見たことがないので詩人の独創に発するものかもしれない。
ごく簡単に説明すると、第1連の2行目が第2連の1行目になり、第1連の4行目が第2連の3行目になる。第1連の1行目が第5連の2行目の後半に現れ、第1連の3行目が第5連の4行目に現れる。この詩人は米国の詩人 John Ashbery (20世紀後半の英語で書かれた詩を代表する詩人、前衛的な詩で「ニューヨーク派」と呼ばれる)の研究から出発しているが、アシュベリとは違う意味での実験をここでは行っている。まことに刺激的で、こういう言葉が適切かどうか分からないが、魔術的。
アフリカからロンドンにやってきて、ここはアフリカではないと繰返し呪文のように唱えつつ、周りのくすんだ色の環境が魔術的にアフリカの極彩色の環境と二重写しになるような不思議な詩だ。東京にいながらふとアフリカの風を感じる小説『ピスタチオ』を想起する。
こんな詩に夢中になっていると日記を書くことも忘れてしまうが、それもこういう日記帳を使うことの歓びといえる。
ほかに掲載された詩人は次の通り。
- Simon Armitage
- W. H. Auden
- John Berryman
- John Betjeman
- Thomas Campion
- John Clare
- Wendy Cope
- Hart Crane
- Emily Dickinson
- John Donne
- Lawrence Durrell
- T. S. Eliot
- Matthew Francis
- Lavinia Greenlaw
- David Harsent
- Seamus Heaney
- Robert Herrick
- Ted Hughes
- Emma Jones
- John Keats
- Nick Laird
- Philip Larkin
- Dorothy Molloy
- Andrew Motion
- Edwin Muir
- Paul Muldoon
- Daljit Nagra
- Alice Oswald
- Don Paterson
- Sylvia Plath
- Ezra Pound
- Christopher Reid
- Jo Shapcott
- Percy Bysshe Shelley
- Stevie Smith
- Dylan Thomas
- Edward Thomas
- Derek Walcott
- W. B. Yeats