たまたま、永嶋大典著『英訳聖書の歴史』(1988)を読んでいたら、ヘブリディーズ諸島のことが出てきた。
この本は英訳聖書の外面史という、非常に限られた視点からの研究書であるが、意外なことに触れている。後日、参考になるかもしれないので、少し引写す。
アイルランドの守護聖人聖パトリック[389?-?461]は、ウェールズのセヴァン川下流に生まれ[一説ではスコットランド生まれ]、アイルランドへ拉致されて奴隷にされたが、かえってこの島をキリスト教に化したといわれる。アイルランドのキリスト教は聖コロンバ[521-597]によってスコットランドへ伝えられる。563年、スコットランド西方、内ヘブリデス諸島の小島アイオーナにコロンバが建てた修道院を拠点として、7世紀はじめまでにはキリスト教はケルト人の住むスコットランド全域に普及した。しかし、部族との結びつきが強く、またそれぞれ独立性の強い修道院を中心としたアイルランド=スコットランド系[つまりケルト系]キリスト教は、南から進出してきた階層的・組織的ローマ系キリスト教と衝突し、敗北することになる。(26-27ページ)
ところで、キーティングの『アイルランド史』(1634)を読んでいると、アイオーナ島のことがときどき出てくる。初期近代アイルランド語ではアイオーナ島のことを Í という。「イー」だ。素っ気ないような気もするが、こういう表記である。例えば次のような箇所。
ar mbeith i nÍ i nAlbain dó
「彼(コラム・キレ)がスコットランドのイー(アイオーナ)にいる時に」の意。