忘れかけていた大事なことを想い起こさせてくれる稀有な作品
[スポンサーリンク]
白河三兎『私を知らないで』(集英社、2012)
基本的に脳を覚醒させる作品が好きだ。文学でも映像でも。
この小説は頭脳を活性化させる。それだけでも稀有なことなのに、もうひとつやってのける。忘れかけていた大事なことを想い起こさせてくれる。
忘れかけていたといったが、忘れてしまっていたのほうが正確かもしれない。ここで喚起された記憶は果たして自分の記憶だったのかどうかも疑わしい。それくらい稀な記憶だ。あるいは、そういう記憶があったと思いたいたぐいの記憶かもしれない。
ともかく、それくらい深くうずめられていた大事なものを掘り起こし、読者をつよく揺さぶるような、そういう力をこの小説は持っている。まだ三作目らしいが、稀有な才能の出現に喝采を送りたい。
主要登場人物は中学生。うち二人は転校生の男子。もう一人はクラスで孤立している女子。多感な中学生の内面をこれほど見事に描き出すとは、と驚かされる。大人も出てくるけれど、「責任感ある」判断をくだし行動するのは大人よりも、圧倒的に中学生のほうが多いという痛快な小説。
少しだけデータを。作者は白河三兎(しらかわ みと)。男性作家らしい。本書で『おすすめ文庫王国2013』(本の雑誌増刊)オリジナル文庫大賞のベスト1を獲得。
国産のプレミアム・ビール「ガージェリー」のために書いたショートストーリー「父の仕事」もなかなかいい。