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ロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」(年刊SF傑作選・版)


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ジュディス・メリル編『年刊SF傑作選〈第2〉 (1967年)』(創元推理文庫、1970)
ロバート・F・ヤングたんぽぽ娘 Robert F. Young, 'The Dandelion Girl'(1961)

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 1961年にはじめて発表されたSF作品を集めたジュディス・メリル編、井上一夫訳『年刊SF傑作選〈第2〉』(創元推理文庫、1967) The Year's Best SF, 7th Annual (1962)に収められている。

 この「たんぽぽ娘」は「サタデー・イヴニング・ポスト」誌に発表されたもの。作者については伊藤典夫の解説にはこうある。

若くてデビューする作家の多いのがSFの特徴だが、その点、三十三歳で書きはじめ、一九五三年、三十七歳のときやっと作品が売れたロバート・F・ヤングなどは、むしろ変り種といえる。以来、ほとんどあらゆる雑誌に書きまくった短編が、百編あまり、一九六五年には、待望の短編集『ロバート・F・ヤングの世界』 The Worlds of Robert F. Young が出た。SF+ロマンチック・ムードというのが、ヤングの持味で、サタデイ・イヴニング・ポストに掲載されたこの「たんぽぽ娘」は彼の代表作といわれている。(441頁)

 この短編には(おそらくジュディス・メリルによる)つぎの序文がついている。

 悪魔と幽霊、まじない師と気違い、予言者に宇宙人、ただ一種を除いて、異様なものすべてはすでに現れている。
 宇宙旅行に形体変移、テレパシーに巨大怪獣(レヴァイアサン)、天文学、人類学、驚異的発明に知的驚異。しかもなお、SF好みのテーマのひとつに使われてないものがある。
 セックスと異常心理、殺人に貪欲、友情、復讐、改革、征服、歓待。ひとつだけ大きな感情がまだふれられていない。
 これはタイム・トラヴェルに関する愛の話である。(160頁)

 「丘の上の少女はマークに、エドナ・セント・ヴィンセント・ミレーを思い起こさせた。」 'The girl on the hill made Mark think of Edna St. Vincent Millay.' ではじまるこの作品は一度読んだら忘れられない。2201年から1961年のコーヴ・シティ Cove City にやってきた21歳の少女ジュリー・ダンヴァースに44歳のマーク・ランドルフは丘の上で出会う。

 作品中にリフレーンのように繰返される「おとといはウサギを見たし、きのうは鹿、きょうはあなた」 "Day before yesterday I saw a rabbit, and yesterday a deer, and today, you."の言葉を読み返すたびに胸がしめつけられるような思いに駆られる。まぎれもない時間旅行の傑作だ。