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記憶データのレコーディング


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門田充宏『風牙』

 

 第五回創元SF短編賞(2013年度)の受賞作二作品のひとつ。本作品の受賞については今後、議論になるかもしれない。選考委員三名の意見が割れ、うち二名が高く評価した作品(本作品ではない)でなく、本作品のほうが《年刊日本SF傑作選》に収められることになったからである。

 本書が属するジャンルは「サイコダイバー」ものといわれる。小松左京「ゴルディアスの結び目」の流れを汲む。この言葉は和製英語のようである。他人の記憶に潜り込む(ダイブする)専門技術者を扱う。

 物語は記憶データのレコーディング作業中に戻ってこなくなった人を救出するために、インタープリタと呼ばれる専門職が、その人の記憶に潜入する経過をつづる。その潜入者・珊瑚の想念だけが関西弁と思しき言葉で語られる。

 この関西弁の語りが自然なひびきでない(作者は北海道根室市生まれ、東京在住)ため、その他の部分の文章(標準語)といちじるしく落差がある。選考委員が完成度の高い作品としているのには首をかしげざるを得ない。

 このインタープリタの特色は「過剰共感能力」を有することである。他の人々が放射する感情がノイズのように心に侵入してくるのを、無制限に受信する人である。このようなタイプはルグィンの作品に出てくるある人物のこと(その作品では 'empath' 〔共感能力者、感情知覚能力者〕と呼ばれる)を思わせる。

 

風牙 -Sogen SF Short Story Prize Edition- 創元SF短編賞受賞作

風牙 -Sogen SF Short Story Prize Edition- 創元SF短編賞受賞作