最北の霧深き島アンスト
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Ann Cleeves, Thin Air (Macmillan, 2014)
イギリス最北の島といえばシェトランド諸島だ。スコットランドの北東にある。
だが、そのシェトランド諸島の中でも最北に位置するのがアンスト島。本書はそのアンスト島を主たる舞台とするミステリ。書いたのは、シェトランド・シリーズで知られる英国の女性作家アン・クリーヴズ(Ann Cleeves, 1954年生まれ)。
そのシェトランド・シリーズの最新作(2014)が本書、Thin Air だ。前作から加わった女性警部ウィロー・リーヴズが、シリーズの主人公ジミー・ペレス警部の上司として捜査を指揮する。
ミステリの発端は、アンスト島で開かれる結婚祝賀パーティ。南のイングランドから若者3組がやってきて、そのうちの1組の結婚を祝う。ところが、そのパーティの夜、新婦付添いの女性役をつとめた友人女性が行方不明になる。捜索の結果、変死体で発見される。
霧深い夜に行方が分からなくなり、捜索は困難をきわめたところから、このミステリ全体に濃霧のような謎がたちこめる。島の人間関係の複雑さと、そういう霧深い自然環境とが相まって、一種独特のミステリを作り上げる。犯人は外から来たイングランド人なのか、それとも現地の島民なのか。謎はページを追うごとに深まる。
ペーパバックで400ページを超す長編だけれど、まったく飽きさせない、サスペンスあふれる物語は、これまでのクリーヴズ作品と変わらない。読み終わるのが惜しいくらいの気持ちに読んでいるとなるけれど、最後の1日の緊迫した展開には息もつかせぬ迫力がある。また、前作で仄めかされた、ペレス警部とリーヴズ警部のロマンティックな雰囲気は本作の隠し味になっている。また、本作では島の伝統文化、特に謎の伝説が大きな鍵を握るので、そうした面に関心ある人にはたまらないだろう。
シェトランド・シリーズの全6作は次の通り。
- Raven Black (2006) 『大鴉の啼く冬』(創元推理文庫、2007)
- White Nights (2008) 『白夜に惑う夏』 (創元推理文庫、2009)
- Red Bones (2009) 『野兎を悼む春』 (創元推理文庫、2011)
- Blue Lightning (2010) 『青雷の光る秋』 (創元推理文庫、2013)
- Dead Water (2013) 『水の葬送』 (創元推理文庫、2015)
- Thin Air (2014) (未邦訳)
原書で読む人のために少しメモ。邦訳版の冒頭に附いているような親切な登場人物表がない。記憶するか、自分で覚書を作るしかない。
ぼくは電子書籍で読んだ。登場人物等を忘れた時はいつでも検索ですぐに探すことができる。Kindle などで読むと便利だ。