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豊穣のシンボル、豊穣の神プリアポス


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ヤマザキマリ『テルマエ•ロマエII』

 

 ローマの浴場と日本の温泉などを往還する物語『テルマエ・ロマエ』の第2巻は、連載当時、「なんでこんな読者を振るい落とすような内容を?」と物議をかもしたエピソードで始まる。

 けれど、作者は本作の当初からこの構想を練り続けていたらしい。豊穣を司る「男根崇拝」を、同じく多神教古代ローマと日本とで取上げる。キリスト教が広まる以前の、ローマと日本とに共通した自然な民衆の信仰を描くのである。日本の温泉地などでも男根をご神体とする儀式や行事がおこなわれるが、それは作者によれば「大地から湧き出す温泉から、人々が太古から母性的な意味を感じ取り続けているから」かもしれないという。ポンペイの遺跡でも豊穣の神プリアポスの彫像や魔除けなどが多数出土している。

 第1巻は日本の風呂の文化を古代ローマ人が見たらどれほど驚くか、の視点が新鮮だったが、この第2巻では歴史的な要素が出てきて、水回りの文化について、より広く深く考えさせる。入浴のマナーには民族の文化的水準が反映することなど、ふだんの生活では気づかなかったことだ。

 ハドリアヌス帝のおかかえの浴場技師となった主人公ルシウスだが、今や、次の皇帝の治世を左右するほどの重要な浴場設計を依頼される。民衆からの支持がないと統治が安定しないのだが、民衆にとって風呂のことはとても大事なことなのだ。

 ところが、これほどの影響力を発揮するルシウスに対し、元老院は危険視しはじめ、彼の存在を消そうと図る。はたして彼の運命は。