Tigh Mhíchíl

詩 音楽 アイルランド

記事一覧

絵に魂を吹き込む浮世絵師蓮十の物語


[スポンサーリンク]

かたやま和華『不思議絵師 蓮十―江戸異聞譚』(アスキーメディアワークス、2012)

 

 時は文化文政期(化政期、1804-1829)の江戸。つまり、町人文化が栄えた江戸時代後期、第11代将軍徳川家斉治下の時代。

 その頃の版元には二種類あった。書物問屋(医学書、儒学書のたぐい)と地本問屋(絵双紙、草双紙、浮世絵などのエンターテインメイント系)だ。後者で名の知れた泉水屋水鏡堂(いずみやすいきょうどう)お抱えの浮世絵師が主人公。名を石蕗蓮十(つわぶきれんじゅう)という。年は十九。

 蓮十の筆には子供のころから不思議な力が宿る。「筆を運んだそばから、絵がしゃべり、動き出す」ことがあるのだ。蛙や亀のような生き物でも人間でも。そんな蓮十が筆の力で町で起きる事件を解決したり、絵そのものにからんで物語は展開する。三つ年下ながら姉が弟に対するように蓮十のことを気にかける水鏡堂の箱入り娘小夜(さよ)がそこにからむ。二日酔いの蓮十に対し小言をいいつつも蜆汁を作ってくれたりする。が、小夜の手料理は旨かった試しがない。

 蓮十は絵とは本来動いてはいけないものであることは知っている。そこで、「仕事として筆を握るときは、完璧に絵を仕上げないように気を付けていた。(略)そうしたほころびを作ることで、絵に魂を吹き込まないよう意識する」ことにしている。だが、そうして仕上げたはずの掛け軸から人が抜け出したのではないかという事件が起こる。蓮十は事情を調べ始める。これが第一話「真冬の幽霊」。第二話「絵くらべ」では悪友の歌川国芳と襖絵の競作をする。夏にふさわしい襖絵を描く、ただし、襖絵らしくない襖絵を描くという注文だ。蓮十はある大きな海の生き物を描くのだが。第三話「桜褪め」は江戸の火事と町火消しの背中の刺青をめぐる話。蓮十は般若面をまさに着けようとする美人の絵を刺青の下絵として描く。

 という具合に話は進む。ところで、本書は(シリーズ第2巻と比べると)入手困難だ。なぜかと考えるに、校正不足の本が出回ってしまったことにあるのではないか。例えば、第一話の51ページに「幸五右衛門」という表記が2回現れる。さらに少しあとの54、59、60、76ページにも各1回。これは実は「幸右衛門」で、蓮十に絵を依頼した人物だ。この話の主要登場人物の名前を6回も誤植するのはさすがにまずいだろう。これ以外にもテニヲハの誤植も複数ある。校正者はいるのかと言いたくなる。アスキーメディアワークスの本はある程度読んでいるが、この本ほど誤植が目立つ本はあまり記憶にない。「粗製濫造」と言われないためにもしっかり校正した本を出してもらいたい。作品そのものは江戸の雰囲気を伝える幻想譚として面白いのに、もったいない。

 

広告を非表示にする