なぞの女性と船幽霊の怪異
[スポンサーリンク]
葉山透『0能者ミナト〈4〉』(アスキーメディアワークス、2012)
0能者ミナト第4巻。豪華客船を舞台とする「船」の1話のみから成る。本シリーズ各巻は2話構成で来たので、本巻の話は長い。読みごたえがある。力作。
ミナトが対決するのは伝説の船幽霊。柄杓で水をまくだけの怪異であり、とても巨大な船を沈められるようには思えない。
ところが、である。その船幽霊がいるとおぼしき客船でつぎつぎに怪事件が発生する。しまいには、本当に沈没もあり得るかもしれないと、みんなが考えはじめる事態に至る。
船幽霊は実体は手一本だけの怪異である。その手で柄杓一杯の水をまきつづけたところで知れている。大勢に影響があるようには思えないのに、なんでそんなことが?
ミナトはこの船で、愁いをふくんだ女性に会っている。恋人を沈没船でなくしたのだが、その彼が沈んだあたりの海に花を手向けたいと思って乗船した。
恋人は死ぬ直前に携帯電話で撮った写真を女性に送っていた。そこには一本の手が写っていた。このことは何を意味するのか。
この事態に対し、特別の能力も持たず、ただ科学的思考のみによって解決するミナトはどう立ち向かうのか。そこが最も興味ある点である。
怪異と科学と聞けば、怪異と見えるものを科学的に説明するなどの方向がすぐ思い浮かぶが、0能者ミナト・シリーズの場合は、怪異は厳然として存在し、それに対し霊能力などを用いずにあくまで科学的思考で解決する。そこが新しい。
亡き恋人に花を贈りに海へ出たこの女性と恋人との本当の別れの場面は感動的である。