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ポオを想わせる夢中夢の世界が堪能できる


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葉山透『0能者ミナト〈3〉』アスキーメディアワークス、2011)

 現代の伝奇譚シリーズの第3巻。本巻は「」と「」の二話を収録。

 今回、ミナトが解決するよう依頼されたのは死なない死刑囚を殺すことと、夢の中に入り込む怪異を退治すること。

 いづれも、一見して解決が困難で、さしもの0能者ミナトでも大丈夫かと思わせられる。何か化け物のような怪異がそこにいて、それと対決するというのでなく、どうやっても死なない人間を死なせるというのは無理難題だし、人の夢の中にいる怪異といったいどうやって闘えばいいのかと頭をかかえるからだ。

 ミナトが0能者と呼ばれるのは、何の特殊な霊能力も持ち合わせないからで、その彼がこれまで数々の怪異事件を解決してきたのは、ただ知性を科学的に働かせたことによる。

 しかし、今回の件は、科学的には説明がつかない不死の人物を死なせるということだし、人の夢という他人が制御できない場が舞台だ。どう考えても科学で解決するのは無理と見えてしまうのは仕方ない。

 どちらも読んでみると、あっ、そうくるのかという驚きの結果が待っている。話としては非常におもしろい。

 二つ目の話「」では、夢魔に取り憑かれるのが、いつも助手をつとめてくれている巫女の沙耶であり、夢の中の闘いは、困難をきわめる。

 夢の中でさらに夢をみるというようなことは起こり得るが、それが物語の地の文となったときには、いったいこれは現実なのか、それとも何段階目の夢なのかという、認識困難な状態におちいる。まるでエドガー・アラン・ポーの詩('A Dream within a Dream' や 'Dream-Land' など)のような世界に入ってしまうのだ。

 この感覚は夢の中で夢を見たことのある人なら判ると思うが、いったいここから抜け出せるのかという不安や恐怖に襲われることもある。本作品ではそのサスペンスが極度に高められている。