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降霊術をめぐる詐欺師と専門家の戦い


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葉山透『0能者ミナト〈5〉』アスキーメディアワークス、2012)

 

 霊能力のない「0能者」が怪異を現代科学で解決するシリーズ第5巻。「石」と「詐」の二話からなる。

 「」は夜泣き石とおぼしき怪異の話。大幽霊妖怪展の会場に運び込まれた巨岩から異音が鳴り響く。そこへ、沙耶とユウキの能力者コンビが訪れる。彼らの師匠、零能者・湊はいない。ただ、展示の紹介ビデオの中になぜか湊が登場する。

 その石に近づくと、異音が鳴り出し、さらに霧のようなものが発生する。危険を察知する二人は対抗手段を講じ始めるが、展示会場の受付の女性、美咲が倒れてしまう。気がつくと、彼ら三人は倉庫の中にいる。怪異が外側から結界を張って三人を倉庫内に閉じ込めているのである。

 この絶体絶命の状況からいかに怪異と対決するかが見どころ。

 「」は降霊会の話。イギリスでは文学や映画で降霊会(セアンス、 séance)はよく題材として取上げられるが、日本の場合はどうか。それそのものがテーマとなることは比較的めずらしいかもしれない。

 ユウキはある降霊会に行き、立ち上がってインチキだと叫ぶ。霊が不在と感じられたからだ。ところが、舞台に上げられたユウキのまえで祖母の霊を降ろしてみせられ、ユウキの糾弾は不発に終わる。

 物語は正式にその会の調査を依頼された湊を軸に進んでゆく。いったい、成仏した魂の降霊などということは可能なのか。前例のない事態を前に、湊と沙耶とユウキのチーム対降霊会の戦いが展開される。はたして、詐欺なのか本物の降霊術なのか。

 日本にはもともと本物の降霊術(口寄せ)がある。それを行うイタコがいる青森の恐山に沙耶が調査に行く場面も出てくる。

 湊の頭脳は今回も相変わらず冴えてはいる。ただ、これまでの巻にあった凄まじい危機と隣り合わせのサスペンス色は少し薄いと感じられる。

 詐欺師と専門家の関係についての湊の卓見は今後の参考になる。

詐欺師が騙しやすい人種に専門家ってのがあるんだ。自分達の狭い視野に気づかず、検証できたと思い込んでいる。超常現象の検証で科学者を騙した例はくさるほどあるぞ。(137頁)