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芥川龍之介の短歌を読む


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芥川竜之介歌集』

 

 大正3(1914)年から4(1915)年にかけての芥川龍之介の短歌や旋頭歌。

 わずか二年間の歌を集めたものなのに、歌風は多彩である。

 「紫天鵞絨」「桐」「薔薇」「客中恋」「若人」「砂上遅日」が収められている。これらの表題にはルビがなく、正確な読みは不明である。

 吉野裕之によれば、「紫天鵞絨」( むらさきビロウドと読むのだろうか)には、北原白秋歌集『桐の花』の影響が強いという。また、「客中恋」には、吉井勇歌集『酒ほがひ』的な作品もあると。また、のちに、大正8年以降になると、「アララギ」の歌人(島木赤彦や齋藤茂吉)に接近してゆくという。

 このように、さまざまな面があるのだが、評者が惹きつけられるのは、たとえば、次のような歌である。

戯奴(ジヨーカー)の紅き上衣に埃の香かすかにしみて春はくれにけり(「紫天鵞絨」)

これは、ストリート・パフォーマの歌だといっても通りそうである。また、次の歌。

ほのぐらきわがたましひの黄昏をかすかにともる黄蝋もあり(「薔薇」)

ここには視覚詩的な要素(「黄」)もありそうである。それから、「客中恋」の次の二首。

かなしみは君がしめたる其宵の印度更紗の帯よりや来し
二日月君が小指の爪よりもほのかにさすはあはれなるかな

二日月といえば、「若人」の次の旋頭歌もある。

たはれ女のうつゝ無げにも青みたる眼か。かはたれの空に生まるゝ二日の月か。

そして、「砂上遅日」の次の六首は恐ろしい高みに達している。

八百日ゆく遠の渚は銀泥の水ぬるませて日にかゞやくも
きらゝかにこゝだ身動ぐいさゝ波砂に消なむとするいさゝ波
いさゝ波生れも出でねと高天ゆ光はちゞにふれり光は
光輪は空にきはなしその空の下につどへる蜑少女はも
うつそみの女人眠るとまかゞよふ巨海は息をひそむらむかも
荘厳の光の下にまどろめる女人の乳こそくろみたりしか

どの歌も凄いが、「いさゝ波」の二首は、旋頭歌のようなリフレーンが組込まれており、迫るちからがある。

 

芥川竜之介歌集