三宅乱丈による壮大な異世界ファンタジーの幕開け
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第13回(2009年)文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞を受賞した作品。ちなみに、その年の大賞は幸村誠の『ヴィンランド・サガ』だった。
二つの星を舞台とし、現在支配している民族カーマと、奴隷となっている民族イコル、さらにカーマの故郷ルーン星の原住民であるイムリの三つの民族が登場する。カーマは4000年前の戦争で凍りついた母星ルーンを離れ、隣星マージに移り住んだ。この戦争でいったいなにが起きたかは謎のベールにつつまれている。
これらの民族の間には厳密な階級構造が存在する。その支配の力の源泉は物質や生命が持つエネルギーを意のままに操る術だ。この術が階級により細分化されている。自分の属する階級を超えた力を使うことは許されない。
ルーン星に向かう呪師(マージ星の民を治める力があると判断された者)候補の若者デュルク(この第1巻の表紙)は同じ夢を何度も見ていた。ルーンに着くと、夢で見ていた女性にそっくりの女性に出会う。この二人はどういう関係にあるのか。
このマンガは息もつかせぬ展開をする。その軸になるのはエネルギーを操る術の現場だ。術の描き方は一種独特で、ほかではあまり見たことがないような図柄だ。
この絵の感じは読む人を選ぶかもしれない。特にエネルギーが流動する絵は直接感覚に訴えるような絵だ。
これを見て評者がただちに思い浮かべたのは幻視者が描く絵だ。たとえば、イギリス18-19世紀の幻視詩人ウィリアム・ブレイク。また、20世紀の神秘家ジェフリ・ホドスンの絵。彼らが描く絵と感じが非常によく似ている。こうした絵に親しんでいる人なら『イムリ』における彩輪(生物が持つ強化可能なエネルギーの総称)を操る術の絵には違和感を感じないだろう。
その絵が一種の(読者を選ぶ)フィルターになっているかもしれない。このフィルターを難なく通り抜けられる人は、このマンガが描き出す世界をひしひしと感じとることだろう。エネルギーの躍動感や、登場人物(人物の絵は一般的基準ではあまりうまいとはいえないだろう)の存在感は、ときに圧倒的だ。叙事詩的な構想力も抜群。