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ブタのことを真剣に考えてしまいます


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荒川弘銀の匙 Silver Spoon 3』小学館、2012)

 

承前)大蝦夷農業高校の酪農科学科の一年生、八軒勇吾はピザ・プロジェクトを成功させる。夏休みに入り、実家に帰りたくない八軒は御影アキの牧場でアルバイトをすることになる。

 農業高校の青春をえがく『銀の匙』第3巻は夏の巻8-16を収める。御影の牧場でバイトをしているところへ、突然八軒の兄がバイクに乗ってやってくる。東大生だったが、ラーメンをきわめたくなって大学をやめ、弟子入りしたラーメン屋から究極の食材を探すようにいわれて来たのだ。味覚はいいのだが、作る料理はおそろしく不味い。

 夏休みが終わって学校に戻ると、いよいよ可愛がってきたブタの”豚丼”との別れのときがきた。どうしても”豚丼”への想いが断ち切れぬ八軒はある仰天の決意をする。

 目標を持たないことでコンプレックスを抱いていた八軒にもようやく何かぼんやりした光が見えてきたような第3巻。しかし、ある種のなぞは依然としてなぞのままだ。

 たとえば、なぞの校長先生。「勤労 協同 理不尽」と書いたシュールな校訓を背にすわるエゾノー校長は「フキの葉の下に住んでる」といわれる。アイヌの伝承にいう小人コロポックル(korpokkur, アイヌ語で「フキの葉の下の人」)か。それくらい背が低い。

 脱線すると、この小人伝説は北海道だけでなく南千島樺太にも流布するらしい。フォークロアから見る文化圏はそのあたりに広がっていたのだ。

 ともかく、この校長先生のなぞはさっぱり解けない。ほかにも前の巻で馬みたいと御影が八軒を評したわけは本巻でもさっぱり分らない。

 まじめに物事を全力で受止める八軒は「価値観が凝り固まっている群れ」に混ざった異物であり、それが普段やらないようなディスカッションを起こし、群れを進化させると富士先生は喝破する。そのことを級友の吉野は別の角度からこう言う。「当たり前だと思い込んでた物を一度きちんと捉え直すのも大事だな、って。」

 こうして、農業高校の日常を痛快に描きつつ、浮いた存在と思われた八軒が静かに成長し、周りも同時に変化してゆく。真剣に生き物に相対する日常は真剣な生き方をうむ。そのさまがほろ苦く、楽しい。