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ロジカル・シンキングの鑑定士の胸のすく推理


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松岡圭祐『万能鑑定士Qの推理劇 I: 1』角川書店、2011)

 

 「Qシリーズ」の中で「推理劇」の第1巻。この本から初めて読んでもだいじょうぶだ。

 主人公の凛田莉子(りんだりこ)は沖縄は波照間島の出身。石垣島の高校を卒業して、飛行機に初めて乗って上京し、就職の面接を受けに行く予定だったが、ハイジャック騒ぎがあり、羽田でなく新千歳空港緊急着陸し、警察の捜査の間、丸二日ホテルに缶詰にされ、遅れた面接試験は破談になってしまう。

 莉子は「見た目は綺麗だが、学力は無きに等しい」。学校の通知表は1ばかり。英語の試験では "comb" の意味をこんぶと答え、飛行機のモニターに映る地図を見ては「おおひらひろし……。誰ですか」という。太平洋のことだ。

 東京で就職情報誌をたよりに他の会社の面接などを受けるが、全滅。新幹線で京都へ行き就職試験を受けるがこれもだめ。莉子は自信を失うが、ただひとりリサイクルショップの瀬戸内陸社長は異なる反応を示す。莉子の感受性は強い、ということは想像力も抜きんでていると見抜く。連想力を試す試験を課したところ莉子が見事に解決したのを見て、見習いのバイトとして採用する。と同時に勉強法や読書の仕方を教える。二十歳になる頃には買い取りコーナーの花形店員になるまでに成長した。そこで次のステップとして瀬戸内はフリーの鑑定家として独立することを勧める。店名は「万能鑑定士Q」。

 ひとりだちする莉子に瀬戸内は論理的思考(ロジカル・シンキング)を磨くよう助言する。二十三になった莉子はさまざまな難事件を解決する。事件はヴァラエティに富んでおり、全く飽きさせない。2011年頃の世相を反映した最新事情も出てくる。いろんな分野の目からうろこの知識も得られて楽しい。人間的にも魅力がある。いっぺんにファンになった。

 そんな莉子をもうならせる人物も登場する。添乗員の朝倉絢菜(あさくらあやな)だ。莉子のロジカル・シンキングとは全く違う思考法のラテラル・シンキング(水平思考)でものを考える。「根拠になる材料がなくても、自由な発想であらゆる可能性を模索、検証して真相に行き着く。論理を掘りさげるロジカル・シンキングとは対極に位置する思考法」で、莉子は苦手だ。

 というように盛り沢山の内容で、1冊の密度は驚くほど濃い。