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古書の鑑定をめぐる活躍が思いやりを秘めて


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松岡圭祐『万能鑑定士Qの推理劇 II: 2』角川書店、2012)

 

 「Qシリーズ」の「推理劇」の第2巻。コナン・ドイルシャーロック・ホームズものの未発表原稿『ユグノーの銀食器』をめぐる謎で幕を開ける。古書オークションに進出しようとする美術品オークション会社ジェルヴェーズに莉子は一冊の古書を持ち込む。依頼人は匿名。ものは1910年刊の『愛ちゃんの夢物語』。ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』の初邦訳だ。訳者は丸山薄夜。アリスはその本では愛子に置きかえられた。この古書にこめられた謎は何か。

 第1巻では莉子の頭脳は冴えわたり、読む者の脳も刺激を受けて活性化するような展開だった。本第2巻ではその面はもちろんあるが、加えて読む者の心に訴えかける情感もたっぷりある。莉子は鑑定士として、みずからのためというより人を救おうとする面が前面に出てくるのだ。切ないほどに純粋な気持ちがにじみでる。

 莉子はキャロル本の鑑定を希望する依頼人を助けるために、みずからの店「万能鑑定士Q」を閉めてジェルヴェーズに就職してまで鑑定を実現させる。人のためにこれほど献身的になる鑑定士というのも珍しい。

 第1巻では主として宝石の鑑定だったが、本書ではジェルヴェーズ社員を教育しながら、もっぱら古書の鑑定にたずさわる。しかし、それも莉子のほんの一面に過ぎない。人間として温かく、懐の深い「万能鑑定士」だ。最初は莉子のことを馬鹿にしていたジェルヴェーズ社員がいみじくも述懐したように、莉子にあっては、「知識への愛情に溢れた探究心こそが、才能を開花させた」のだ。特別なエリート教育を受けたのでもない、高校在学中は成績はずっと最下位だった莉子が本物を見る目を培ったのは、すなおな感動を心に仕舞いこんでいったからだった。