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アイルランドの包括的理解をめざす書


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波多野 裕造『物語アイルランドの歴史―欧州連合に賭ける“妖精の国”』(中公新書、1994)



 3月17日はアイルランドの国民的祝日、セント・パトリックス・デー。世界中でこの日の前後にパレードが行われる。日本でも各地でパレードが開催される。

 聖パトリックはアイルランドキリスト教を伝道した聖人として、世界各地に住むアイルランド系の七千万人の人々にとって、この上なく重要な存在だ。

 聖パトリックはブリタニア(いまの英国)で生まれ、奴隷としてアイルランドに連れてこられるが、脱走して300kmの道を走破し、異教徒の船でブリタニアに帰国する。しかし、どうしてもアイルランドのことが気にかかり、宣教師としてアイルランドに舞い戻ってキリスト教化に尽力する。布教を行ったのは5世紀前半のこととされる。記念して祝う3月17日は聖パトリックが他界した日とされる。

 著者は1990年から約3年間、駐アイルランド大使としてダブリンに在勤した。その際、アイルランドの包括的理解に役立つ書物がなく、がっかりしたという。そこで、歴史学者でもない外交官の彼がみずから著したのが本書。古代から現代に至るアイルランドの歴史を手際よくまとめてある。

 特に、第2章「イギリスによる植民地化」の「群雄の覇権争い」のところはわかりやすい。

 1994年の出版であるから、その後の「ケルティック・タイガー」としてのアイルランドの経済的繁栄とかIMFとEUとによる緊急融資のことなどには当然のことながら、触れられていない。