Brian Merriman, The Midnight Court/Cúirt an Mheán Oíche (Mercier, 1999)
今日メリマンの『真夜中の法廷』を研究しようとするひとは、まずオムルフーのテクストを用いるだろう(Liam P. Ó Murchú, Cúirt an Mheon-Oíche, Clóchomhar, 1982)。けれども、アイルランド語のみで注解や解説が書かれているので、ややむずかしい。
そんな場合には、このパワーによる対訳版が好適だ。左ページにアイルランド語、右ページに英語訳が配されている。
パワーの翻訳の方針は、できるだけ原詩に忠実に訳すこと。くわえて、行末で母音韻を2行づつ用いること。可能なら、行内でも母音韻を用いること。
全体として、どれくらい信頼がおけるかだが、手頃な対訳版という以上の価値はそれほど大きくないかもしれない。ともかく、これだけで他の翻訳や注解が不要だというほどのレベルではない。
ひとつには、採用しているテクストの問題がある。本書のテクストは全部で1096行。厳密な校訂を経た定本のオムルフー版では1026行だ。
ともあれ、18世紀のアイルランド語詩を代表する長詩が対訳版で読めることの意義はある。最近まで英訳はアイルランドでは禁書だったことを考えると。
18世紀のアイルランド女性が結婚相手の不足をきびしく糾弾する妖精法廷のおもしろさは、何度読み返してもあきないのだけど、そのあまりに赤裸な性的表現と反聖職者的言辞のゆえに、今に至るまで正確な英訳は出版されていない。〔そうした部分を含む正確な英訳と日本語訳が日本で『真夜中の法廷』の題で2014年に出版された。〕