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日本の宝といえる昔話集


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柳田 国男『日本の昔話』 (角川ソフィア文庫、2013)



 老若男女問わず推薦したい、日本の昔話集。珠玉のアンソロジーである。

 ここに収められたような昔話が未来永劫に語り伝えられることを切に願う。

 本書の底本は『改訂版 日本の昔話』(1960)。それの基になったのが『日本昔話集(上)』(1930)。1960年版は旧版収録の108話のうち45話を削除し新たに43話を加えたもの。この改訂版には、「各話ごとに伝承地と資料集の名および採集者が記されることになった」。

 1930年版が出たのは柳田国男が「本格的に昔話研究に着手」した頃である。その前後の柳田の昔話研究の歩みを概観すると、「民間伝承に注目した最初の著作」『遠野物語』(1910)から、「地方からの民俗学的な事象の報告や紹介」をなす雑誌「郷土研究」の創刊(1913)を経て、『日本昔話集(上)』に至り、さらに、『昔話と文学』(1938)などを書き、昔話研究の「総決算といえる著作」『口承文芸史考』(1947)に結実する。

 本書に収められた昔話の構成については、「動物が登場する昔話、本格的な昔話、最後に笑い話を置くという三分類法」を試みている。

 印象に残る話が多いけれども、中でも長野県に伝わる「矢村の弥助」の話や、福島県に伝わる「蛇の玉」、山形県に伝わる「団子浄土」など、心に染み通る話だ。ワイルドの『幸福な王子』や、アイルランドの口承説話などとも少し似通う点があり、「郷土研究」を共に始めた比較神話学者・高木敏雄が1922年に没していなければ、この昔話研究が比較研究的視点を獲得したかもしれない。

 巻末の解説(三浦佑之)は参考になる。